Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

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ヨハン・ピンゼル

artscene2011-10-12



 今、2011年秋の特別展として、フランス・パリのルーヴル美術館で開かれている「ヨハン・ピンゼル展」が注目されている。彼の作品は、もともと教会の祭壇を飾っていたものだった。


 彫刻家、ヨハン・ゲオルグ・ピンゼルは、今からおよそ250年前、18世紀にウクライナ西部国境地帯に生まれ、バロック芸術の体現者として宗教的モチーフの彫像を残した天才的彫刻家である。だが、旧共産圏の生まれ育ちだったこともあり、その生涯や作品が世に知られていない。作品の大部分は旧ソ連時代、主にスターリニズムによって破壊され本格的評価が始まったのはようやく近年になってからである。


 ポーランド語でルヴフ、ドイツ語でレムベルクとも言われるが、ピンゼルが作品を残した「リヴィウ」を中心とするウクライナポーランドの国境地帯は「ガリツィア」と呼ばれる。ポーランド文化の影響の強い地域である。


 中世期はキエフ・ルーシ下にあり、その分裂後はガリツィア公国、ガリツィア・ヴォルイニ大公国の領土となった。14世紀以降、この一帯は正式にポーランド領に組み込まれ、1772年のポーランド第一分割ではオーストリア帝国領になった。ピンゼルが制作した18世紀半ば前後、リヴィウ周辺はポーランド領だったことになる。


 バルト海から黒海に通じる水路、陸路の交通の要衝であるリヴィウは、中世、国際的な貿易都市に発展。ポーランド人やユダヤ人、ドイツ人など職人や商人が流れ込み、第二次大戦までは多文化性を誇った都市であった。経済の発展は文化の発展も促し、文化的中心地としても重要な役割を果たしていた。第一次、第二次と二度の世界大戦の間は一帯が再びポーランド領になり、第二次大戦後はソ連邦ウクライナ領、1991年には独立したウクライナ共和国領となって現在に至っている。

 
 ここに彗星のごとく現れて天才的な作品をいくつも残したピンゼル。その作品はあまりにも生々しい表情で見るものを圧倒する。信じがたいほど誇張された衣装も強い印象を残さずにいられない。


 スターリニズムの宗教芸術破壊に巻き込まれ、旧共産圏の中に埋もれたまま無名だった彫刻家の作品が、いまルーブルでも特別展が開かれて注目を集めている。このウクライナで18世紀に活躍したヨハン・ピンゼルについて、悲劇の国ウクライナがたどった歴史を踏まえながら日本のテレビ初公開の映像とともに、今夜NHKのBSで放映される。

 
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 極上 美の饗宴 


 激情ほとばしる像の秘密 「ウクライナ・祈りの彫刻は語る」


BSプレミアム  10月10日(月)午後9:00〜9:57


 
あまりにも生々しい表情。信じがたいほど誇張された衣装。無名だった彫刻家の作品が、いま注目を集めている。ウクライナで18世紀に活躍したヨハン・ピンゼル。過剰なまでの感情表現が見る者を圧倒する。作品は、もともと教会の祭壇を飾っていたものだった。なぜ、それほど激しい彫刻が作られたのか? そこには、ウクライナがたどった歴史が深くかかわっていた。日本のテレビ初公開の傑作の魅力をひもときながら謎に迫る。


【出演】ワダエミ石丸幹二,田辺幹之助,ボリス・ボズニツキー,ウィラ・ステツコ,ギレム・シェルフ



【語り】井上二郎
 

http://www.nhk.or.jp/bs/gokujou