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文字の力・書のチカラ? 書と絵画の対話

artscene2013-07-22


本展は2009年1月に開催し、好評を博した企画展「文字の力・書のチカラ ― 古典と現代の対話」につづく第二弾です。平安時代から現代に至るまで、受け継がれた書表現の創造力と表現力について、改めて「チカラ」というキーワードの下に探究します。


副題に掲げたとおり、本展では書における絵画的な表現に注目しました。漢字の歴史には象形文字があり、また点画を省略した草書体があります。わが国の仮名文字も、漢字の書体を基本として抽象化した記号のような造形です。 こうした文字の造形を、筆と墨とによって表現する書の世界は、これまで多彩な美観を育んできました。
黒々とした墨痕が主張する重厚感、擦れた線に漂う静寂な趣、そして薄墨色が柔らかくにじむ情緒的な印象など、これらは絵画とも通じ合う感覚。伝統の継承と、新たな創造の織りなす中で、書と絵画とは相互に関わり合いながら、表現の可能性を徐々に広げてきたのです。
本展では5つのテーマに沿った約80点を厳選し、平安時代から現代まで伝播してきた書のチカラの実像へと迫ります。現代に生きる私たちの眼で、魅力あふれる書との対話をお楽しみください。



2013年7月6日(土)〜 8月18日(日)
みどころ
平安から現代まで、日本の書の要所が早わかり!
平安時代の名筆・高野切にはじまり、桃山時代本阿弥光悦らの華麗な作品、そして昭和を代表する書家たちの優品に至るまで、約900年あまりにわたる日本の書の歴史が、本展ではダイジェストで一望できます。しかも従来の教科書的な人物解説ではなく、各時代と各作品の特徴を、これまでにない斬新な視点から、わかりやすくご紹介します。書というと、どこか堅苦しさを感じてしまう方々にとっても親しめるような、オムニバス形式の会場となっています。
展覧会の構成
1 書の景観・華やぐ舞台
2 融美(ゆうび) −書画一如(しょがいちにょ)の世界
3 墨と戯れ、墨に酔う
4 伝えるチカラ
5 書の風雅
各章の解説
1 書の景観・華やぐ舞台
優美な筆運びで書かれた文字の姿や線の流れは、それをただ眺めるだけでも美しく感じることはできますが、さらに散らし書きのような紙面構成の工夫が加わると、より一層美しい「景観」として見ることができます。こうした書独特の「不思議な浮遊感」は、古来、自然の光景に喩えられてきました。空をわたる浮き雲のように、そして飛びゆく雁のように、あるいは風になびく花や草木のようにと王朝人たちが目にした様々な美的景観が、書の世界を介して、これら小さな空間に再現されているのです。このコーナーでは、仮名書の美とそれを支える華やかな料紙との呼応にも注目しながら、仮名書の展開をご紹介します。

花卉摺絵古今集和歌巻(部分) 本阿弥光悦 寛永5年(1628) 出光美術館
2 融美(ゆうび) −書画一如(しょがいちにょ)の世界
このコーナーでは、書と水墨画との関係について見てゆきましょう。元来、私たちに見えている実際の景色は色鮮やかであり、墨線だけで描けるものなど限られています。しかし水墨画を見る時、どこか共感できるのは、各々がかつて経験したことのあるモノクロームな風景を、記憶の中から呼び覚ましているからではないでしょうか。画家の心象風景が抽象的なイメージや叙情的な表現を生んでいるとすれば、それは書の見方でも同じだといえます。読めなくても、少し離れた位置から眺めていると、書と水墨画とは、共に墨線を交錯させながらも、互いに響き合い、融け合って、一体化しています。そしてこうした書画一如の表現志向は、現代に至るまで多様な世界を育んできました。

瀟湘八景図(8幅のうち) 池大雅 江戸時代 出光美術館
もっとみどころ1
書の抽象表現について、事例研究します
1950年前後ごろ、禅の哲学と禅画が国際的な注目を集めたことから、日本国内でも高僧の書が高く評価されるようになっていました。一方、欧米の画家たちがさまざまな実験的制作によって推進した抽象表現も、国内の前衛的な作品づくりの手本となっていました。このような時代背景の中、当館の仙?「〇△□」は国内外の作家たちの注目を集めていったようです。本展では、仙?「〇△□」と、これをヒントに書かれたと推察される、昭和書壇の巨匠・手島右卿の「吟月」を並べて比較展示し、書ならではの制作過程を探検します。

吟月 手島右卿 昭和34年(1959) 光ミュージアム

○△□ 仙? 江戸時代 出光美術館
3 墨と戯れ、墨に酔う

詩書屏風(部分) 良寛 江戸時代
筆墨を思いのまま、自由自在に操れるようになると、一旦、書の表情から潤いが消えるといわれます。巧みさばかりが際だつ作品には、本格的な技術上の主張は認められたとしても、見る人のこころを和ませるような情緒や生命力といった気分は感じ取れないということでしょう。それを自覚するように、頑なプロ意識からこころを解き放ち、もっと自由な発想の下で楽しい作品を手がけたい、と考えた中世以降の書き手(描き手)たちが、新たな気運を生み出しました。無邪気に筆墨と戯れることや、自分だけの世界観を満喫するなど、本物の自在感を手にした彼らの、生き生きとした実験と実践が「戯墨」「醉墨」の世界を完成させています。
もっとみどころ2
酔うて候? 戯墨と醉墨
文人たちの酒好きはよく知られたこと。宴席では、決まって座興が催され、文人たちはそこで得意の筆を揮っていました。非日常的な空間と気分とが相まった時、普段とは一味違った独特の表情が備わります。しかし、おそらくそれは酔いの加減とは関わりなく、自在な境地を得た熟練の書き手にとっては、別の自分を演じる行為で、そう難しいものではなかったと思われます。ひと筆書きや指頭画、紙屑画といった筆墨との戯れと、「酔い」と書作の関係を作品から分析します。

東山図 田能村竹田 文政6年(1823) 出光美術館
4 伝えるチカラ
書作品には、自然と伝播してゆく魅力(チカラ)が備わっています。ただし、そのチカラは書き手の意志に関わらず、変容しながら伝わってゆく特徴を持っています。たとえば手本の字形をどれだけ丁寧に書き写しても、必ず書き写した人独自の個性がそこに加わってしまいます。また創作の場で書き手がヒントとするものは、いつの時代のどんな事例からでも選んで引用することが可能ですから、新たな作品の中では元の造形感が複数混じることになります。それでも元の面影をすべて消し去ることなどできません。このように、人から人へ、作品から作品へ、と書き伝えられてゆくチカラが書にはあるのです。書の造形が伝わりゆく時の特質を、「引用」と「編集」という観点から探ってみましょう。


上:面壁達磨図 白隠慧鶴 江戸時代 出光美術館
左:不識・達磨図 慈雲飲光 江戸時代
5 書の風雅

一行書「道在近」 慈雲飲光
江戸時代 出光美術館
墨蹟の重要な表現形態である一行書の世界は、バラエティーに富んでいます。一行書は、その名が示すとおり、ひとくだり、まさに一行に文字を配置して書く書式です。しかし簡潔な形式だからこそ、各々に独創性が要求されます。これを書き手の立場からみると、最も個性を発揮しやすい場であり、またさまざまな挑戦が許されたとても自由な創作の場であったとも言えます。このコーナーでは、時をつなぎ、重なり合いながら個性的表現が増幅してゆく一行書の世界を、楽曲におけるFuga(表現上の同じ旋律が、順次重なり合うように展開してゆく様子)の語になぞらえ、一望してみましょう。
本展の基本情報

開館時間
午前10時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
毎週金曜日は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)

会期・開館時間等は都合により変更することがあります。最新情報は当ウェブサイトまたはハローダイヤル(03-5777-8600)でご確認ください。
休館日
毎週月曜日



入館料
一般1,000円/高・大生700円(団体20名以上 各200円引)
中学生以下無料(ただし保護者の同伴が必要です)
障害者手帳をお持ちの方は200円引、その介護者1名は無料です