Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

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デザインが導く未来

artscene2013-07-21



榮久庵憲司と、彼が率いる創造集団GKは、戦後の復興期より、数々の製品をデザインすることで、日本人の生活や都市空間の近代化の一翼を担ってきました。その領域は、日ごろ街中で目にする日用品やオートバイから、博覧会場の施設やサイン類、都市のインフラストラクチャーまでと、多岐にわたります。


 榮久庵は、実家を継ぐべく僧門に入ったのち、デザインの道を志しました。その原点には、原爆で廃墟となった広島の街の光景と、進駐軍が体現していたアメリカ文化があったといいます。そして東京藝術大学在学中より、ともにデザインを学ぶ同窓生と、「ものの民主化、美の民主化」をスローガンに、当時の日本としては類のない、インダストリアルデザインを専門とするグループ、GKを結成しました。



以降、60年にわたるデザイン活動の根底に流れているのは、モダンデザインと東洋の思想の融合に加え、人が作ってきたもの=道具についての長年の研究です。人類が太古に初めて手にした道具から、未来の暮らしまでを見据えて、人と道具のあるべき関係をデザインによって提案し続けてきました。
 本展覧会では、製品化されたものやその模型、将来へのプロポーザル、さらに人と自然と道具が美しく共生する世界を具現化したインスタレーション等によって、榮久庵憲司とGKが展開してきた、デザインの世界像をご紹介します。


基本情報
会期: 2013年7月6日(土)−9月1日(日)
休館日: 毎週月曜日
*ただし7月15日(月・祝)は開館、翌日7月16日(火)は休館
会場: 世田谷美術館 1階展示室
観覧料: 一般1000(800)円、65歳以上800(640)円、大高生800(640)円、中小生500(400)円 
*( )内は20名以上の団体料金、障害者の方は500円(介助の方1名までは無料)、大高中小生の障害者の方は無料
主催: 世田谷美術館(公益財団法人せたがや文化財団)
後援: 世田谷区、世田谷区教育委員会
特別協力: GKデザイングループ
助成: 芸術文化振興基金
協力: ヤマハ発動機株式会社、キッコーマン株式会社、
東日本旅客鉄道株式会社、日本航空株式会社、
株式会社根本杏林堂、オオアサ電子株式会社


関連企画
◎記念講演会
「生活美を求めて」
GKの創立者であり、現在もGKグループを牽引している榮久庵憲司氏に、未来生活のデザインについて語っていただきます。
日時: 7月21日(日) 午後3時〜午後4時
講師:榮久庵憲司(GKデザイングループ会長)
会場:世田谷美術館講堂 [手話通訳付]
定員:当日先着150名 ※当日午前10時より整理券を配布
料金:無料


◎美術と演劇のワークショップ
「えんげきのえ」
展示物、建物、公園の植物……美術館で出会うモノから、演劇のはじめの一歩をふみだします。
日時: 7月14日(日) 午後1時〜午後6時
講師:柏木陽(演劇家、NPO法人演劇百貨店代表)
会場:世田谷美術館地下創作室ほか
対象:10代以上の方
定員:20名
料金:10代の方=500円、20代以上の方=1500円
申込方法:こちらより
申込締切:先着順


◎100円ワークショップ
どなたでもその場で気軽に参加できる工作など。
日時:8月中の毎金曜日、土曜日 午後2時〜4時
会場:世田谷美術館地下創作室
参加方法: 時間中随時受付
参加費:1回100円


関連リンク
アートライブラリーより企画展「榮久庵憲司とGKの世界―鳳が翔く」の関連書籍をご用意しております。
>>詳細はこちらのリストをご覧ください。


展示構成

第1 章:茶碗から都市まで

榮久庵は東京藝術大学に在学中の1952 年、工芸科助教授の小池岩太郎のもとで、同じ志をもった仲間とともに、自主的にインダストリアルデザインについて学び始めます。これを契機としてGK(Group of Koike)が結成されました。この時、彼らがスローガンに掲げたのが「モノの民主化」、「美の民主化」です。GK は戦後復興が始まった日本社会に次々と、日常生活で使う製品を送りだしていくようになっていきました。1960 年代に入ると、彼らの活動の領域は大きく拡がっていきます。さらに、1970 年の日本万国博覧会では、全体計画の最初期から関わり、企業パヴィリオンも手がけています。また、デザインする範囲も、個別の製品や施設だけでなく、都市という規模でのトータルデザインへと幅広く展開していきました。
この章では、榮久庵とGK がいままで手がけた製品を、実物や模型などでご紹介します。



〈VMAX〉、2008 年

第2 章:創造工房

博覧会で展示するテクノロジーを駆使したオブジェや、モーターショーのためのオートバイのコンセプトモデル、博物館施設に設置されるインタラクティブな情報装置など、新たなコンセプトや技術の開発も、GK の活動の一環としてあります。
まだ見ぬ未来の暮らしの姿をどのようなかたちで社会に実現させるかを、GK は常に具体的に考え続けてきました。
この章では、GK デザイングループの各社が、かねてより継続してきた、または近年新たに取り組んでいる研究や自主提案を紹介します。芸術とテクノロジーの融合を大きなテーマとして、医療やスポーツの器具から、災害時に対応可能な仮設空間、都市の新交通など、幅広い領域での未来の生活への提案となっています。



〈触れる地球〉、2001 年−


〈瀬戸内飛行艇特区 水上飛行艇イメージ図〉、2013 年

第3 章:道を求めて

道具が人々の生活を支える一方、人類を絶滅させる力も持ってしまった現在において、榮久庵は道具の力を調整し、ものづくりの方向性を再構築する機関が必要と考え続け、「道具寺道具村」を構想しました。
構想の実現に向けて榮久庵は、2005 年10 月、和歌山県の山中に、道具千手観音像と五具足を設えた〈道具庵〉と、寝所となる〈月の庵〉を構え、7 日間の山籠修行を行います。朝は読誦、昼は写経をして、道具寺道具村の建立を発願するというものでした。
道具村は、道具寺を中心に複数の施設が配置され、デザインを志す人々が生活する一種の共同体となっています。道具寺の本堂には、道具千手観音像が祀られます。
デザイン、ものづくりを通して人間の人格を高め、道具の「物格」を育み、人間と道具が共生する世界を、榮久庵は希求しているのです。
榮久庵は、この構想を、インスタレーション作品〈道具寺道具村構想〉として2006 年に発表しました。本展覧会でも再構成して展示いたします。



〈道具千手観音像〉、2006 年
※〈道具寺道具村構想〉の一部になります。

第4 章:美の彼岸へ

この章では、榮久庵とGK による、もう一つのインスタレーション作品〈池中蓮華〉をご紹介します。  
〈池中蓮華〉は、道具寺に安置された道具千手観音像に向かい、修行を続けることで導かれる極楽浄土の世界を、現代の素材とテクノロジーを用いた広大な蓮華池として表現しています。榮久庵とGK が提唱してきた活動が成就した暁の、人と道具の幸せな共生が実現した理想郷の姿といえるでしょう。
それと同時に、人々にとって便利な道具をデザインするだけでなく、誰も見たことのない憧れの対象としてあるものをどのようにデザインし、人工物=道具で具体的なかたちにするかという、デザインの本質に関わる大きな問いへの、ひとつの解答ともなっています。              
その上空を鳳が舞います。古代より霊鳥として崇められている鳳が、大空を、音もなく飛翔し、その姿を見る人々の気持ちは、清らかに澄みわたる。このような榮久庵の願いが、鳳に込められています。