宮川町歌舞練場
かつて宮川町の顔だった旧車寄せの前で笑顔を見せる叶恵さん=京都市右京区の法金剛院
京都五花街の一つ、宮川町歌舞練場(京都市東山区)正面に約40年前まであり、その後解体されたと考えられていた車寄せの建物が、「ハスの寺」として知られる法金剛院(同市右京区)に移築されていたことが分かった。7日に始まる春の公演の背景画には、同寺の庭とこの車寄せが描かれた。三味線で出演予定の同町歌舞会の芸妓(げいこ)・叶恵(かなえ)さんは「車寄せの前で昔に戻ったような気分で演奏したい」と話している。
同町歌舞会によると、旧車寄せは唐破風作りで1916年の建築。69年に歌舞練場を改修した際に解体されたと考えられていた。ところが約4年前、西約5キロにある同寺の玄関に同歌舞会と同じ「三ツ輪」の紋があるのを参拝客が見つけ、同町歌舞会に連絡。坪倉利喜雄組合長が訪問し、かつて慣れ親しんだ旧車寄せと確認した。川井戒本住職の説明では、改修工事の業者が美しい曲線を描く屋根が解体されるのを惜しみ、知人を介して同寺に引き取りを依頼したという。
宮川町で生まれ育った叶恵さんは子供のころ、地蔵盆の時期に車寄せの軒下で習いたての踊りを披露するのが楽しみだった。芸妓の道を志し、踊りや楽器の稽古(けいこ)で毎日のように軒先を通った思い出の建物。
同町歌舞会の春の「京おどり」では毎回、舞台背景に京都の名所が描かれる。今年の第二景はハスの花が咲く同寺の庭が選ばれ、旧車寄せも登場。公演を前に先月下旬、同寺を訪れた叶恵さんは
「解体されたと聞いてましたが、昔のまんま。本当に懐かしく、うれしおす。」
と目を細めた。花街を見守ってきた旧車寄せは今、ハスをめでる参拝客を静かに迎えている。