Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

芸術、美術、展覧会の紹介をしています。

三菱一号館美術館

artscene2012-02-10


http://katagami.exhn.jp/outline/index.html


三菱一号館美術館
〒100-0005 
東京都千代田区丸の内2-6-2
会  期 2012年4月6日(金)−5月27日(日)

休 館 日 毎週月曜(但し、4月30日と5月21日は開館)

開館時間
[火・土・日・祝]10時〜18時、
[水〜金]10時〜20時
※いずれも最終入館は閉館30分前まで


東京メトロ千代田線「二重橋前」駅(1番出口)から歩3分

東京駅(丸の内南口) 「有楽町」駅(国際フォーラム口)から歩5分



大人 1,400円

高校・大学生 1,000円

小・中学生 500円




19世紀後半、万国博覧会などを通じて海を渡った日本の美術工芸品は、西欧の人々に驚きの目をもって迎えられました。とりわけ芸術家たちにとって、その斬新な構図やデザイン、緻密な技は、作品を制作する上での大きなヒントとなったのです。ジャポニスムと呼ばれるこの現象は、絵画の分野では、印象派と浮世絵などとの関連が既に詳しく紹介されていますが、工芸については、その技法の多様さのため、これまでスポットをあてられる機会はほとんどありませんでした。  


着物やその他染織品の文様染に使われる日本古来の伝統工芸・型紙は、この時期に西欧にもたらされ、その美しいデザインや高度な技術が高く評価されて、当時西欧各地で起きた美術工芸改革運動に大きな影響を与えました。  


本展は、19世紀末から20世紀初頭にかけて西欧に渡った日本の美術工芸品の中でも特にこの型紙に注目し、型紙が西欧の芸術家たちの創作活動にどのような影響を与えたのかを紹介する日本で初めての試みです。日本で生まれた型紙が海を渡り、染色という本来の用途を超えて自由に解釈され、アール・ヌーヴォーをはじめとする西欧の美術工芸改革運動の中で豊かな広がりを見せていった様相を、約400点の作品とともに俯瞰する展覧会です。



19世紀末から20世紀以降、西欧諸国の工芸デザインに大きな影響を与えることになる日本の型紙は、鎌倉から室町時代にかけて使用が始まったと考えられています。型紙を用いた染は、桃山から江戸時代にかけては武家男子の衣服に盛んに用いられましたが、江戸時代中期以降は町人男女の衣服にも取り入れられ、明治時代前期にかけて全盛期を迎えました。


本章では、江戸時代から明治時代に制作された型紙と型紙染の着物、型紙染の着物が描かれた浮世絵のほか、日本の型染と密接な関係にあると考えられる沖縄の伝統的染色技法・紅型(びんがた)の作品などを通じて、型紙と型紙染の歴史をご紹介します。



19世紀後半、万国博覧会などを通じて欧米にもたらされた型紙は、産業革命以降低迷していたイギリスの装飾芸術や産業芸術に新しいデザインの風を吹き込みました。工業デザイナーの先駆けとして知られるクリストファー・ドレッサーが、1876−77年に日本を視察して型紙染めの技法を著作中で報告したことを契機に、80年代以降、リバティー百貨店では型紙が販売され、シルヴァー・スタジオをはじめとするイギリスの産業芸術に美的インスピレーションを与えました。スコットランドでは、チャールズ・レニー・マッキントッシュが型紙を平面装飾に応用しています。
一方、アメリカでは、1876年のフィラデルフィア万博から型紙への関心が高まり、ルイス・コンフォート・ティファニーなどにより、型紙の影響が顕著な作品が多数制作されました。



19世紀末に印象派が絵画革命を起こし、その後アール・ヌーヴォーの花開くフランスでは、早くから日本の文物への関心が高く、ジャポニスムと呼ばれる造形運動が起こりました。絵画ではナビ派が日本の平面デザインを画中に応用し、工芸デザインではナンシー派が型紙のコレクションを活用した作品を制作しました。テキスタイルの産地であったミュルーズ、リヨンでも型紙が収蔵され、さかんに日本風文様がデザインされました。  
アール・ヌーヴォーのもうひとつの揺籃の地となったベルギーの首都ブリュッセルでも、実際に型紙を所有していたアンリ・ヴァン・ド・ヴェルドや建築家ヴィクトール・オルタが、型紙を参考にして曲線デザインをつくりあげました。本章では、19世紀末から20世紀初頭の仏語圏を彩ったアール・ヌーヴォーの作品の中から、特に型紙の影響が見られる作品を紹介します。




871年に漸く統一をみたドイツでは、19世紀半ば以降自国産業の発展促進のために、数多くの工芸博物館とそれに附属する学校が設立されました。当時なおハプスブルク帝国の威容を誇っていたオーストリアを含むドイツ語圏では、型紙の受容にこの工芸博物館・学校が大きな役割を果たしました。型紙は幅広い地域で収集され、各地の工芸改革運動やユーゲントシュティールと呼ばれる新しい芸術潮流と密接に連動し、時代に見合う新たな造形を模索していた人々の手本とされたのです。本章では、ドイツにおける型紙の受容とその展開に加え、ドイツ北西部ルール地方と経済的に密接な関係をもつオランダ、そしてウィーン工房を中心とするオーストリアでの型紙の影響を紹介します。




19世紀末から約100年後のいま、欧米では日本の伝統文様が再び流行の兆しを見せています。その受容のしかたは一世紀前とは異なり、極東への憧れやエキゾティズムの域を超え、文様はもはや珍奇なものとしては捉えられていません。
カーペットを製造する英国のブリントンズ社では、近年、型紙の文様を採用したカーペットを製造、それは社を代表する商品となっています。またウィーンのバックハウゼン社では、型紙の文様に着想を得てコロマン・モーザーがデザインしたテキスタイルを現在でも販売しています。ここでは、世紀末芸術において見られたような極度にデフォルメされたデザインではなく、日本の文様がほぼそのままの形で再現されています。
日本の文様を忘れていた西欧の人々にとって、型紙のデザインは全く新しい、モダンでユニヴァーサルなものとして受け止められているようです。100年前の芸術運動において劇的な変化を見せたように、型紙の文様はこれから変容していくのかもしれません。本章では、世界各地において生き続ける、型紙に由来するデザインの例を紹介します。