Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

芸術、美術、展覧会の紹介をしています。

入江泰吉記念奈良市写真美術館

artscene2011-11-07



1945年、米軍による長崎への原爆投下で消失したとされていたカトリック浦上天主堂の宗教画


 「馬利亜十五玄義図(マリアじゅうごげんぎず)」


 のモノクロ写真乾板を、大阪芸術大非常勤講師の松本夏樹(59)=堺市堺区=が保管していることが分かった。ガラス製のネガにあたり、奈良・大和路の風景や仏像を数多く撮影したことで知られる写真家の入江泰吉(1905-92)が撮影に関わったもの。2002年に大阪市内の古美術品店で購入したものだという。入江の戦前の原板は少なく、貴重な資料である。



 馬利亜十五玄義図は日本画の材料を用い、キリストや聖母マリアの生涯が15コマに分割して描かれた縦64センチ、横54センチの絵画。江戸時代に隠れキリシタンの家に伝わったとされ、明治時代以降、浦上天主堂が保管していた。



 その写真は美術史家の西村貞が1945年1月に出版した専門書「日本初期洋画の研究」に挿絵として掲載。しかし、大阪の出版社が同年3月の大空襲に遭い、乾板は行方不明になっていたが、美術史を専攻する松本が大阪・梅田近くの古美術店で紙箱に収められた乾板100枚を数十万円で購入。この中にネガが混じっていた。9枚が玄義図の15コマのうち9コマを1枚ずつ写したものであったが、惜しくも他の6コマは見つかっていない。



 入江泰吉記念奈良市写真美術館によると、大阪に自宅兼写真店を開いていた入江も空襲で焼け出されて戦前の原板はほとんど残っていない。説田晃大(せつだこうだい)学芸員は、この作品が載っていたのは洋画の専門書なので、入江が撮影に関わったこと自体を知らず、ここまで幅広く活躍していたことに驚いていると話している。



 今後、出版社から持ち出された乾板が古美術店に持ち込まれたのではないかと推測されるが、しかるべき機関に保管と研究を委ねる予定。


 坂本満・お茶の水大名誉教授(美術史)
 馬利亜十五玄義図は、これまで西村氏の著書に掲載された絵を基に研究するしかなかったので原板は貴重である。