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「上野公園ノ法律上ノ性質」

森鴎外が帝室博物館総長を務めていた晩年に執筆したとみられる未完の論文。

 大正時代、博物館の所管だった東京・上野公園の移管問題に際して反対の理論構築を図った内容。鴎外のまとまった文章が新たに確認されるのは珍しく、作家、軍医としての活動に加え、博物館総長の責務に真剣に取り組んでいたことを裏付ける新資料となる。


 博物館の用箋10枚にペンで記され、他の館内文書と表題のない冊子にとじこまれていた。推敲)の跡に加え、タイトルの下に「不完」「大正九年六月」の注記がある。



 内容はこの当時、帝室財産として宮内省の博物館が管理していた上野公園を、政府か自治体に下賜する移管問題が起きたことへの反論。目次では「公園トハ何ゾヤ」に始まる3章を記し、本文は第4章「上野公園管理ノ法律上ノ根拠」まで書き進められている。上野公園の法的な位置づけや歴史上の経緯を検討し、帝室財産のままでも、公共の利用に供し得ると主張している。


 後身にあたる東京・上野の東京国立博物館に保管されており、開館140周年記念の特集陳列に向けた調査で、田良島哲(たらしまさとし)・同館調査研究課長が確認した。無署名ながら、本格的な論理構成や「吾人ハ多クノ学者ニ反対シテ」といった言葉遣いから見て、総長以外の館員が書いたとは考えられず、筆跡も考慮した上で、鴎外の執筆と判断した。