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シベリア抑留:5センチ巻物、無限の望郷 元日本兵の遺品見つかる 

大津市歴博で10日から展示

毎日 7月5日(木)


 

◇米粒大、家族や極寒つづる歌
 第二次世界大戦後、ソ連軍の捕虜としてシベリアに抑留された大津市俳人の元日本兵が残した遺品から、極寒生活や家族への愛情を現地で詩歌につづった巻物が発見された。巻くと約5センチになる極小の紙に米粒大の字で書き込まれ、ソ連兵の没収を免れたとみられる。解読した市歴史博物館は「極限状況を鋭い観察力で記した貴重な資料」と評価している。【千葉紀和】
 同市柳町で酒屋を営み「紫陽」の俳号を持っていた井上治平さん(1912〜97)の遺品。42年に29歳で旧満州に出征し、終戦後の45年11月から47年8月までの2年近く、シベリアの収容所にいた。
 巻物は縦5・2センチ、横1・07メートル。孫にあたる同市の主婦(39)が昨年9月、遺品を整理していた際に発見、同博物館に連絡した。表には仏画と魔よけの呪文が印刷され、戦地でお守りとして常に携帯していたとみられる。
 裏面には「敗戦の詩集」と題が付けられた50点余りの俳句や短歌、詩が赤ペンと鉛筆で書かれている。捕虜になってから帰国が決まるまでの生活が中心で、厳しい暮らしや日本に残した妻子への思いなどを詠んでいる。また、戦友約60人の住所や氏名も記されていた。
 発見した主婦は「祖父は抑留時代の話を自分からはしなかった。優しい祖父らしい家族への思いが書かれ、宝物だと思う」と話す。
 巻物などの遺品は同博物館で10日から始まる企画展「シベリア抑留の記録」(8月19日まで。無料)で紹介する。


 ◇数勺の 粥すすりつゝ強行す 妻子の幻を瞼にうかべつゝ
 巻物の詩歌は、望郷の念から自然への慈しみまで、独特の感性で切々とつづっている。
 捕虜として収容所に向かう約300キロの行軍中は、湖都に残す妻子を思いこう詠んだ。
 <数勺の 粥すすりつゝ強行す 妻子の幻を瞼にうかべつゝ>
 苦しい強行軍のさなか、家族のためにも生き延びようとした決意は<追散らす ソ兵監視の隙見つゝ 砂と混りし粟一握み拾ふ>とうたった。この時は発見され兵士に銃で背中を殴られたものの、「レールの間に散乱する米一粒にでも飢えた瞳はこれを見のがさない」とも記している。
 <荒廃の庭のコスモス咲きわびて 北風吹けばさびしくも揺る>のように、花月を扱った作品も多く残る。
 約2カ月かけて解読した同博物館の樋爪修館長(59)は「悲惨さの中でも心豊かな強さを感じる。抑留生活をこうした形で伝える資料は珍しい」と話す。