Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

芸術、美術、展覧会の紹介をしています。

東京都写真美術館(目黒・恵比寿)

artscene2011-04-08


芸術写真の精華
 日本のピクトリアリズム 珠玉の名品展
 Masterpieces of Japanese Pictorial Photography


会 期: 2011年3月8日 ( 火 ) -  5月8日 ( 日 )

休館日:毎週月曜日(休館日が祝日・振替休日の場合はその翌日)

料 金:一般 800円/学生 700円/中高生・65歳以上 600円

東京都写真美術館友の会、当館の映画鑑賞券ご提示者、上記カード会員割引

小学生以下および障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料

第3水曜日は65歳以上無料


東京都写真美術館3階展示室
電話: 03(3280)0099
〒153-0062 
東京都目黒区三田 1-13-3
恵比寿ガーデンプレイス

開館時間:10:00-18:00(木・金は20:00)
(入館は閉館の30分前)
休館日: 毎週月曜日 (月曜日が祝日の場合は翌火曜日)

交通機関: JR・地下鉄日比谷線 恵比寿駅東口 歩10分 歩く廊下あり






左) 野島康三 「髪梳く女」 1914年 京都国立近代美術館
右) 黒川翠山 「題不詳」 1906年


 写真の芸術性は、写真術が発明された当初から模索された。19世紀中頃から絵画を模倣することによって写真の芸術性を確立しようとする動きが顕著になり、世紀末には「ピクトリアリズム(絵画主義)」として世界を席巻する。

 日本でも明治時代中期に、初期の湿式コロディオン法からセラチン乾板への技術革新が行われることによって登場するアマチュア写真家たちが、西欧の動向を取り込みながら「芸術」としての写真のあり方を模索しはじめる。しかし、その模索は、日本の伝統的な絵画と受容したばかりの西洋絵画の両方を規範とする日本独自のピクトリアリズムの写真表現をかたちづくってゆくことになる。


 大正時代に入るとゴム印画やブロムオイル印画といったピグメント印画法を駆使した作品やソフト・フォーカスの表現をもつ作品が数多く生み出され、手工芸的なプリントワークを高度に駆使したそれらは、一品制作の作品としてあるときはデリケートで精緻に、またあるときは豪放磊落でユニークな表現を展開し、日本の写真表現に大きな潮流をつくった。この動向は、写真だけにしか出来ない表現を追求する近代的写真表現が確立した時代の中にあっても、形を変えながら受け継がれていく。


 本展では、明治時代後半から1930年代までに制作された、日本が世界に誇る珠玉の名品約120点と貴重な資料を一堂に集め、日本のピクトリアリズム表現の精華を公開。近代化の中で獲得した日本人の感情がいかに変容し、いかに変容しなかったかの軌跡が浮かび上がっていく。

<出品作品>

写真作品 (約120点を予定)
黒川翠山、野島康三、小野輶太郎、吉野誠、日高長太郎、堺時雄、福森白洋、安井仲治、大久保好六、福原信三、福原路草、島村逢紅、梅阪鶯里、河野龍太郎、高山正隆、塩谷定好、廣井昇、小関庄太郎、田村榮、山本牧彦、岩佐保雄、有馬光城 ほか

資料 (約20点)
『写真例題集』『白陽』『銀の壺』などの芸術写真雑誌
『湖北印画法』飯田湖北、『天弓画集』などの写真集 ほか


<古典的なピグメント印画法とは?>
 本展に出品される作品の多くは、写真の技法のひとつである「ピグメント印画法」によって制作されている。ピグメント印画法とは、その名の通り「顔料」を使い画像を作る方法。よく知られている銀の化合物によって画像が作られる写真(ゼラチン・シルバー・プリントなど)と違い、ピクトリアリズムの特徴である、独特のやわらかさと美しさを作り出すことができる。この技法を使い、日本人の写真家たちは、日本人ならではの繊細な表現を生み出した。主な古典的なピグメント印画法を紹介。



カーボン印画 Carbon print 
この技法が多く使用された時期:1870年代-1920年


 アルフォンス・ポワトヴァン(仏)が、1855年にゼラチンやアラビアゴムなどが重クロム酸カリウムなどの薬品と混ぜると光に感じる性質(感光したところが硬くなる)をもつという原理を発見し、カーボン印画法、ゴム印画法、オイル印画法などのピグメント印画法のもとになった。カーボン印画法は、ジョセフ・W.スワン(英)が、1864年に考案。顔料をゼラチン溶液に混ぜ、それを紙に厚く塗り、それを乾かした後、重クロム酸カリウムの溶液で感光性を与え、ネガを密着させて、太陽の光で焼き付け、温湯で現像する。

ゴム印画 Gum-bichromate print
この技法が多く使用された時期:1860年代〜1920年


ポワトヴァンが発見した原理にもとづき、19世紀末にアルフレッド・マスケル(英)やロベール・ドマシー(仏)らによって改良され、ピクトリアリズムの芸術写真の代表的な印画法として広く使われた。アラビアゴムと顔料と重クロム酸カリを混ぜた溶液を水彩用紙などに薄く塗り、乾燥させる。ネガを密着して太陽の光で焼き付けた後、冷水で現像。この過程を何度も繰り返して、画像をコントロールして求める調子を作りだす。

ブロムオイル印画 Bromoil print
この技法が多く使用された時期:1910年代〜1930年代


E.J.ウォール(英)が1907年に原理を発見し、C.W.パイパー(英)が同年に完成。普通に引き伸ばしたゼラチン・シルバー・プリントは金属銀で画像ができているがそれを、銀のある部分のゼラチンは硬く、そうでない部分は水を含むようにする薬品をつかって脱銀漂白する。そこに油性インク(油絵具など)を刷毛をつかって叩きつけると、水と油の反発作用によって画像が現れる。日本のピクトリアリズムの芸術写真家たちは盛んにこの技法を使って作品を制作した。


展覧会図録:
芸術写真の精華 日本のピクトリアリズム 珠玉の名品展
展覧会の主な出品作品と作品解説、作家解説、関連年表および担当学芸員と日本のピクトリアリズムの研究者によるテキストを掲載。
A5判 237ページ 発行:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都写真美術館