バルビゾンへの道 − 山寺 後藤美術館コレクション展
展覧会の内容
1章 神話・聖書・文学
ジュゼッペ・バルトロメオ・キアーリ
《エジプトからの帰還途中の休息》
制作年不詳 油彩・カンヴァス
15世紀に盛期に達したルネサンス以来、古代神話や聖書、歴史上の事件に題材を採る物語画(歴史画)は、西洋美術の理論体系において至高のものとされ、ヨーロッパ芸術の基底を成すものでした。ローマ神話の愛と美の女神ヴィーナスに代表される神々や、聖母マリアをはじめとする聖女や聖人たち、さらに叙事詩や戯曲などの文学作品に登場する人物を描いた作品は、その主題を知ることで、観る者に、絵画を「読む」楽しみを提供してくれます。
2章 美しさと威厳
ジョン・エヴァレット・ミレイ
《クラリッサ》
1887年 油彩・カンヴァス
特定の人物の容貌を描く肖像画は、古代より描かれてきましたが、注文肖像画の分野は特に17世紀のオランダで隆盛を極めます。本展に出品される17世紀から19世紀にかけて、主に貴族や上流階級の人々からの注文により制作された肖像画では、画家が技巧と工夫のかぎりを尽くして描いた様子をみることができます。 一方19世紀には、市民社会の要請に応えるような、同時代の「風俗」を描いた絵画も流行しました。画面に登場する様々な階層の女性たちが、ある時は哀しく、あるいは教訓的に、また時には風刺的に分かり易い人生のドラマとして描き出されています。
ラファエル前派の画家として名高いミレイは、1870年以降、肖像画を数多く手がけ、親しみやすい大衆的な画風で人々を魅了しました。《クラリッサ》は清純な娘、クラリッサの破滅の物語を綴ったサミュエル・リチャードソンの同名の小説の主人公を、ミレイの娘ソフィーをモデルに描いた作品。美しさと気品をたたえた18世紀イギリスの肖像画の伝統に倣った形式を採用しています。
ジャン=バティスト・ユエ
《羊飼い姿のヴィーナス》
制作年不詳 油彩・カンヴァス
3章 静物画 ─ 見つめる
モデスト・カルリエ
《花といちごのある静物》
制作年不詳 油彩・カンヴァス
異国の珍しい花が描かれた静物画は、富を誇示する調度品として好まれましたが、その一方で、本物と相違ない迫真的な描写は、観る者の目を欺く効果や、花のつかの間の美しさにより人生の儚さを暗示する「ヴァニタス」のテーマとも結びついていました。本展では、19世紀のヨーロッパ各国の静物画を通して、身の回りの物に目を凝らして描くことで生み出される世界を展覧していきます。
ベルギー出身で19世紀のパリで活動したモデスト・カルリエの、緑と赤の色彩が印象的な本作では、陶器の壷や緑の布に反射する光の描写などにより、それぞれの物の質感が見事に表現されています。
4章 風景と日々の営み
ジャン=バティスト・カミーユ・コロー
《水車小屋のある水辺》
1855-65年頃 油彩・カンヴァス
ジャン=バティスト・カミーユ・コロー
《サン=ニコラ=レ=ザラスの川辺》
1872年 油彩・カンヴァス
物語画の背景として、次第に画面の中で比重を拡大していった風景は、17世紀のオランダで、ひとつのジャンルとして成立し、飛躍的な発展を遂げました。 そして、18世紀に始まった産業革命以降、ヨーロッパの先進国で都市が急速な発展を遂げると、それに比例するかのように、都市に暮らす人々の田園への憧れも強 まっていきました。19世紀にヨーロッパ各国で風景画が盛んになる理由の一つに、このような社会構造の変化が挙げられます。
テオドール・ルソーやジャン=フランソワ・ミレーに代表される、バルビゾンの村に集まった画家たちは、あくまでも自然に即した風景画を目指し、あるがままの 農村生活や身近な人々の姿、そして田園風景を主要なモティーフとして制作します。フォンテーヌブローの森で制作したジャン=バティスト・カミーユ・コローは、 同地で活動した画家たちと生涯親密な交際を続け、とりわけ銀灰色と緑を基調とした、薄靄のかかる森の抒情的な作品で人気を博しました。
また動物描写を得意としたコンスタン・トロワイヨンは、一貫して戸外での観察に基づいた忠実な風景描写を精力的に行いました。
バルビゾン派1830-70年代頃、パリ郊外に位置するフォンテーヌブローの森に抱かれたバルビゾン村を拠点に、田園風景や人々の暮らしを描いた画家たちの集合体のことです。産業革命と市民革命により「近代」の幕開けを迎えた19世紀のヨーロッパは、都市の開発が劇的に進み、人々を取り巻く生活環境が一変。その一方、開発の波に呑みこまれることなく、昔ながらの素朴な生活を続けていたバルビゾンの村には、安らぎと、あるがままの自然を求めた画家たちが集いました。
エメ・ペレ
《羊飼いの少女》
制作年不詳 油彩・カンヴァス
コンスタン・トロワイヨン
《小川で働く人々》
制作年不詳 油彩・カンヴァス
ギュスターヴ・クールベ
《波》
1874年頃 油彩・カンヴァス
クールベは、モネの師である海景画家ブーダンに会って以来、海景画に深い関心を抱き、何点もの傑作を制作しました。《波》は荒ぶるエネルギーを秘めた海に対峙し、その力強さを画面に再現した作品です。
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