時空を超えた東西の技─「モザイク美の世界」ヴェネチアン・グラスと里帰りした箱根寄木細工
2013年特別企画展
ヴェネチアン・グラスを代表する匠の技を凝らした花模様や幾何学模様の鮮やかなモザイク・グラス。紀元前1世紀の古代ローマ時代には、すでに同様の技法で器などが制作されていました。しかし、制作工程が極めて複雑なため、やがてその技術は消失してしまいます。ヴェネチアでは制作技法を研究し19世紀後半にヴィンツェンツォ・モレッティ(1835〜1901)が古代ローマ時代のモザイク・グラスの皿や坏類を次々と復元しました。古代のモザイク模様を見事に甦らせたヴェネチアン・グラスの技術力は高く評価されていきます。
同じころ、木の美しさを活かし精緻な幾何学文様を作り出す日本の寄木細工もヨーロッパでは人気を博していました。日本の寄木細工は1873年にウィーン万国博覧会で紹介され、明治時代に入ると箱根では外国人向けの小さな箱から、ライティングビューローなどの大きな家具に至るまで盛んに制作されヨーロッパを中心に輸出されました。
本展ではヴェネチアのモザイク・グラス約90点と、ヨーロッパから里帰りした日本のモザイク作品である箱根寄木細工30点を合わせて約120点を一堂に展観いたします。ガラスと木という異なる素材の織り成す多彩なモザイク美の世界で初めての競艶をご高覧ください。
会期:2013年4月20日(土)−2013年11月24日(日)
http://www.ciao3.com/museum/kikaku/2013_glassmosaic_yosegi/index.html
菊(部分) 1960年ヴェネチア
菊(部分) 1960年ヴェネチア
展示構成
モザイク・グラスと箱根寄木細工〜モザイク美の競艶〜
石やタイル、動物の角や牙、木などの材料を敷き詰めて作り出されるモザイク技法が生み出されたのは、古代メソポタミア。現在のシリアやヨルダンなどの地域にあたります。このモザイク技法の発祥の地は、またガラス発祥の地でもありました。宝石を敷き詰めるかのように、ガラス片を熔着した最初期のモザイク・グラスはメソポタミア地域から出土しており、紀元前15世紀頃のものと言われています。 この地で生み出されたモザイクの技術は東西に広がり、古代エジプトではファラオの副葬品に寄木技法が使われ、また古代ローマ時代には壁面装飾やモザイク・グラスに、そしてシルクロードを経て日本にまでその技術は受け継がれていったのです。 日本では、箱根にて様々な寄木文様と象嵌をちりばめた小箱や箪笥から、ライティング・ビューローや飾棚などの大型の作品まで多数制作され、欧州各国に輸出されていきました。 独自の発展を遂げた日本の箱根寄木細工と、古代ローマから水の都ヴェネチアに伝わり、華麗に花開いたモザイク・グラス。それぞれのモザイクが織り成す「美の競艶」が始まります。
・展示予定作品(「KIKU」、「琥珀を織る」、近現代のモザイク・グラス、ライティングビューロなど)
古代ローマ時代のモザイク・グラス〜人の手により作り出された“宝石”〜
ガラスが生み出されたのは今から約5000年前の古代メソポタミアと言われています。陶器の表面を覆うガラス質の釉薬を扱う過程で発展していったと考えられ、初期はガラスのビーズや飾り板などの小型の作品が中心に制作されていました。 様々な色ガラスを熔着したモザイク模様のガラス容器が作られるのは紀元前15世紀頃。その後「ローマの平和」を実現する初代ローマ皇帝アウグストゥスの時世(紀元前1世紀頃)になると、高度に発達したモザイク・グラスが作られるようになり、ガラス制作は一つの頂点に達したのです。ガラス職人たちの試行錯誤により積み重ねられた知識によって、敷き詰めたガラス片を型の中で熔着する技法や、ガラスの種にモザイク・グラスの板を熔着して膨らませる吹きガラス技法が生み出されていきました。 宝石以上の魅力を放つ色鮮やかなモザイク・グラスは2000年の時を経てなお、古代ローマ時代の隆盛と、高度な技術力を今に伝えているのです。
・展示予定作品(古代ローマ時代のモザイク・グラス)
甦るモザイク・グラス〜古代への憧れと、新たな挑戦〜
古代ローマ時代に高度に発達したモザイク・グラスの技術は、ローマ帝国の崩壊とともに歴史から失われてしまいました。その後ガラス制作の技術はイスラム圏で発達を遂げ、ルネサンス期のヴェネチアで隆盛を取り戻すことになりますが、モザイク・グラスの技法はガラスビーズなどの一部の使用にとどまり、古代ローマ時代の栄華を取り戻すまでには至りませんでした。 モザイク・グラスが人々の注目を取り戻すのは19世紀に入ってからのこと。ガラス職人ヴィンツェンツォ・モレッティがポンペイなどの遺跡で発掘された古代のモザイク・グラスの技術を復活させたことに始まりました。1878年のパリ万博に出品したヴィンツェンツォ・モレッティの古代ローマ時代のモザイク・グラスのレプリカは人々の称賛を浴び、その後のヴェネチアン・グラスの方向性を決定したのです。 今では他分野のデザイナーもヴェネチアのガラスデザインに参加し、多種多様なモザイク・グラスが作られるようになりました。古代ローマ時代に連なるガラス制作の技術と、時代に沿った新たなデザインの融合が続く限り、今後も斬新な作品が生み出されていくことでしょう。
・展示予定作品(ヴィンツェンツオ・モレッティ、エルコレ・モレッティ、カルロ・モレッティ、近現代のモザイク・グラスなど)
モザイク・グラス坏
モザイク・グラス皿 ラヴェンナ
1981年(ヴェネチア)
エルコレ・モレッティ工房 所蔵
モザイク・グラス皿
1880年頃 (ヴェネチア)
ムラーノ・ガラス美術館 所蔵
モザイク・グラス坏
1世紀 (ダルマチア地方)
ムラーノ・ガラス美術館 所蔵
ライティング・ビューロー
ライティング・ビューロー
明治時代(箱根) 金子皓彦 所蔵
明治20〜30年頃に制作された寄木文様と象嵌で表装された書き物机。朝顔、鶴、鳳凰のほか、十二弁の菊花・桜・桔梗・蝶などの象嵌模様が随所に施されている。高さは181cmに達し、下段に内蔵した扇形の拡張テーブルを左右に引き出すと全幅は241cmにも及ぶ日本最大級の寄木細工の作品である。
明治時代に入って多くの外国人が箱根を訪れるようになると、外国人の嗜好に合ったトランプケースやシガレットケースなどの寄木細工が作られるようになった。また、横浜より外国商館員も訪れ、ライティング・ビューローや飾り棚、チェステーブルなどを注文し、欧米諸国に輸出した。
モザイク・グラスと箱根寄木細工
石やタイル、動物の角や牙、木などの材料を敷き詰めて作り出 されるモザイク技法が生み出されたのは、古代メソポタミア。 現在のシリアやヨルダンなどの地域にあたります。このモザイク技法の発祥の地は、またガラス発祥の地でもありました。宝石を敷き詰めるかのように、ガラス片を熔着した最初期のモザイク・グラスはメソポタミア地域から出土しており、紀元前15世紀頃のものと言われています。
この地で生み出されたモザイクの技術は東西に広がり、古代エジプトではファラオの副葬品に寄木技法が使われ、また古代ローマ時代には壁面装飾やモザイク・グラスに、そしてシルクロードを経て日本にまでその技術は受け継がれていったのです。
日本では、箱根にて様々な寄木文様と象嵌をちりばめた小箱や箪笥から、ライティング・ビューローや飾棚などの大型の作品まで多数制作され、欧州各国に輸出されていきました。 独自の発展を遂げた日本の箱根寄木細工と、古代ローマから水の都ヴェネチアに伝わり、華麗に花開いたモザイク・グラス。それぞれのモザイクが織り成す「美の競艶」が始まります。
箪笥(上面部分)明治時代 箱根
箪笥(上面部分)明治時代 箱根
企画展図録
本図録は約130点の作品を掲載。前半では、古代ローマ時代に制作された貴重なモザイク・グラスから、その後ヴェネチアで発展を遂げた斬新なモザイク・グラスまでを紹介。後半では、箱根で制作され欧州各国に輸出された寄木細工の作品の鮮明な写真と解説文を掲載。巻末にはモザイク・グラスと寄木細工の制作工程も写真付きで分かりやすく解説しています。東西で発展したモザイク芸術の魅力が存分に詰った一冊です。
2013年特別企画展 展覧会図録 「‐時空を超えた東西の技‐モザイク美の世界」
2013年特別企画展 展覧会図録
時空を超えた東西の技‐モザイク美の世界
2013年 初版
発行:箱根ガラスの森美術館
監修:岩田正崔(箱根ガラスの森美術館 館長)
編集:箱根ガラスの森美術館 学芸部
編集協力:金子皓彦(工芸品コレクター)
マリオ・ボニチェッリ(箱根ガラスの森美術館 イタリア支局長)
デザイン:山田政彦
印刷:大塚巧藝新社インターナショナル
項数:160項 サイズ:B6
価格:1800円(税込)
会場 箱根ガラスの森美術館
主催 ヴェネチア市立美術館総局、毎日新聞社、箱根ガラスの森美術館
後援 駐日イタリア大使館、イタリア政府観光局(ENIT)、イタリア文化会館、箱根町
協力 アクイレイア国立考古学博物館、アドリア国立考古学博物館、アルティーノ国立考古学博物館、ムラーノ・ガラス美術館、エルコレ・モレッティ工房、ジャコモ・デ・カルロ、ジュージ・モレッティ、神奈川県産業技術センター工芸技術所、小田原箱根伝統寄木協同組合、本間寄木美術館
作品・企画協力 工芸品コレクター 金子皓彦