菱田春草の作品を発見
屏風絵「虎之図」 菱田春草の作品と鑑定
菱田春草の作品だと分かった、トラを描いた屏風絵
長野県内の男性が所有し、下伊那郡阿智村在住の日本画家、吉川優さん(53)が保管する屏風絵「虎之図」が、飯田市出身で没後100年を迎えた日本画家、菱田春草(1874ー1911年)の作品と鑑定されたことが28日、分かった。36歳で病死した春草の学生時代の作品とみられ、作風の変遷などを知る貴重な資料となりそうだ。
屏風は六曲半双で高さ95センチ、幅274センチ。岩の上に躍動感のある虎が水墨で描かれている。これまでも春草作と伝えられてはいたが、落款や署名が無かったため、吉川さんが東京美術倶楽部鑑定委員会(東京)に依頼。春草作との鑑定を得たという。現在は吉川さんが自宅以外の場所で保管している。
吉川さんが所有者や同倶楽部から聞いた話によると、春草が東京美術学校(現東京芸大)の学生だった17歳のころ、飯田市内の親戚宅の屏風に描いた作品とみられる。
春草は輪郭線を描かない画風「朦朧(もうろう)体」の作品「菊慈童」などで知られる。欧米遊学を経て、晩年は写実性や装飾性のある作品を発表した。同市美術博物館の小島淳学芸員(41)は「学生時代の作品は相対的に少なく、貴重な資料になる」と話す。
屏風は11月4〜6日、阿智村コミュニティ館で開く吉川さんの個展で公開する。
「拙さもあるが、筆づかいにスピード感と若さが満ちあふれている。36歳で亡くなった春草の原点が分かる初期作品」(保管する画家吉川優さん(53歳))
屏風絵は高さ95センチ、幅274センチ。吉川さんによると、春草が東京美術学校(現東京芸大)の学生だった17歳の時、親戚宅で描いた。これまでも春草作と伝えられていたが、東京美術倶楽部鑑定委員会(東京)に依頼、本物と認められたものである。
なお、現在、菱田春草の画業をたどる
が長野市の県信濃美術館(美術館長 橋本光明)で開催されている。約120点の作品を集め、輪郭線をぼかして表現する「朦朧体」と呼ばれる描法が誕生するまでの軌跡を追っている。
10月16日まで。9月29日からの後半は作品約30点の入れ替え。大人1200円、大学生千円、高校生以下無料。水曜休館。
東京美術学校(現・東京芸大)入学後の初期の作品から、朦朧体の作品へと変遷をたどる展示。同学校の設立に尽くした岡倉天心が「空気を描く方法はないか」と問い掛けたことが、朦朧体誕生のきっかけといわれる。当時は批判されたが、日本画に新境地を開いた手法でもある。
同じ長野県内、飯田市美術博物館で10月2日まで開催中の特別展「春草晩年の探求―日本美術院と装飾美」もあわせて開催されている。
さらに、没後100年を記念する能と狂言の公演「飯田能」が飯田市の飯田文化会館で開かれた。観客約1000人が五つの舞台を楽しんだ。
春草の作品「菊慈童(きくじどう)」が市美術博物館で開催中の特別展で展示されているのに合わせて、同じ題目の能も披露された。約700年生きるとされる老人を取り上げた舞で、笛と小鼓の軽快な音に合わせて能楽師が床を踏み鳴らしながら踊った。菩薩(ぼさつ)の使いの獅子が石橋を渡る演目「石橋(しゃっきょう)」では、赤と白色の毛の獅子が勇壮に舞い、観客から大きな拍手が送られた。
1995年から市内で能を月1回教えている観世流シテ方、寺沢幸祐さん(42)=大阪市=が、公演開催を同文化会館に打診。寺沢さんは「しっかり鑑賞してもらっているという熱意を感じた。できれば定期公演も検討していきたい」と話していた。