Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

芸術、美術、展覧会の紹介をしています。

東京・目黒  東京都庭園美術館

artscene2011-06-15



 ロシア・サンクトペテルブルグにある国立エルミタージュ美術館は世界有数の美術館として知られ、数ある作品群のなかでもとりわけ貴重とされるガラスコレクションは、14世紀から20世紀にわたる幅広い時代を網羅。ヴェネツィアボヘミア、イギリス、スペイン、フランスなど、ヨーロッパ各地で制作されたガラス芸術の多様性を、当時の最高峰レベルの作品を通じて概観することができる。

 
 これらのコレクションは、歴代のロシア皇帝や皇后、貴族が身近に置いていた作品群をはじめ、いずれも出自や来歴が明らかな優品ばかりで、これまで国外に紹介されることはほとんどなかった。


 
 ロマノフ王朝によって収集・継承されてきた質の高い作品群に、エカテリーナ2世によって設立された帝室ガラス工場製の多様なガラス製品を加え、15世紀から20世紀に至るヨーロッパとロシアのガラス芸術の精華を、珠玉の190点により展示。


 
 東京・目黒  東京都庭園美術館
 最寄り駅:  目黒駅、白金台駅

 http://www.teien-art-museum.ne.jp/index.html

 一般 1000円
 大学生〔専修・各種専門学校を含む〕 800円 
 小・中・高校生、65歳以上 500円

 前売り及び20名様以上の団体料金は2割引。


未就学児は無料
障がい者手帳をお持ちの方とその付き添いの方1名は無料
教育活動として教師の引率する都内の小・中・高校生とその教師は無料  (要事前申請)

第3水曜日シルバーデイ(7/20、8/17、9/21)は65歳以上の方は無料



主 催 :公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都庭園美術館
後 援 :東京都/ロシア連邦大使館/ロシア連邦文化協力庁
協 賛 :フィンエアー
企画協力:アートインプレッション




第一章 ルネサンスからバロックの時代へ


1)水の都の幻想−ヴェネツィア
 15世紀から18世紀における欧州最大のガラス生産地はヴェネツィアでした。15世紀に薄手で高品質の無色ソーダガラス「クリスタッロ」が開発されたことにより表現の幅を広げ、ガラスピースをモザイク状に組み合わせた「ミッレフィオーリ」や中国の磁器を模して白濁させた「ラッティモ」、そしてレースのような装飾を施した「フィリグラーナ」などの技法が生まれます。そしてこの地で技術を身につけた職人たちが、ヨーロッパ各地にその技法を広めていくのです。


2)深い森 光と影−ボヘミア、ドイツ、フランス
 18世紀に入るとボヘミアやドイツ、フランスでの生産が盛んになります。ボヘミアではエングレーヴィングやエナメル彩色による華やかな装飾のゴブレットが作られ、シレジアやポツダムといったドイツ地域では、錬金術師たちの活躍によって、金を使って赤く発色させた「ルビー・グラス」が生まれました。


3)南国の情熱 土の香り−スペイン
 カタルーニャやアンダルシアなどのスペインでも、イスラム圏の影響を受けた独特な形状を持つガラス器が作られています。


 ゴブレット ヴェネツィア 17世紀  

 神聖ローマ帝国の紋章を描いた大杯 ボヘミア  16世紀第4四半紀

 カンティール(水やワイン用の容器) スペイン、カタロニア 18世紀

 他



第二章 ヨーロッパ諸国の華麗なる競演


1)技巧と洗練−ヴェネツィア、イギリス、フランス、オーストリアボヘミア、ドイツ
 19世紀にはいるとバロックロココ調の優美な装飾から、カットガラスや金彩を用いた抑制のきいた装飾が主流となっていきます。食器や鏡、燭台のような生活に密着した製品の分野で、ガラスはより洗練された表現を担っていくことになるのです。



2)手仕事の宇宙−装飾品
 かつてヴェネツィアが市場を独占してきたガラスビーズの生産は、18世紀半ばに開発された新たな技法の登場により広くヨーロッパ各地に普及し、ビーズを用いた刺繍や手工芸が隆盛を迎えます。



3)新しい夜明け−アール・ヌーヴォーアール・デコ
 19世紀末からのアール・ヌーヴォーの流行は、ガラス工芸の方向性に新しい変革をもたらします。フランスのエミール・ガレドーム兄弟の作品はまさにその嚆矢であり、被せガラスを大胆に用いた自然主義的・象徴主義的な作風は、アール・ヌーヴォーの代名詞となりました。
 続く20世紀初頭、大量生産大量消費社会の到来を背景に、工業生産の技術を最大限に生かしたアール・デコのデザインは、それまで連綿と続いてきた手わざによる作品創造の世界を一変させていきます。



ウェッジウッド様式」の磁器製台座をもつ4本の蝋燭用枝付燭台 西ヨーロッパ 18世紀第4四半紀



婦人用肩掛け 西ヨーロッパ 19世紀後期



花を描いた花器 フランス、ナンシー、ドーム兄弟工場  1900年頃




第三章 ロマノフ王朝の威光



 ロシア地域におけるガラス製造の歴史は、ルーシ(キエフ大公国)において11世紀前半にはじまります。しかし18世紀前半までは、ガラスは貴族など限られた人だけが手にできる奢侈品でした。


 18世紀半ばにはロシアにおけるガラス製造の技術は円熟期を迎え、華麗なエングレーヴィングによって紋章やモノグラムを彫刻したセルヴィス(晩餐会用食器セット)などが作られます。金を用いたルビー・ガラスなどの色ガラスが作られるようになったのもこの頃です。
 
 
 18世紀末、女帝エカテリーナ2世が設立に関わったガラス工場がロシア帝室ガラス工場として整備されます。同工場で製造された鏡やガラス製セルヴィスは、外交的な贈答品としても使用されました。


「オルロフ・セット」より9点の品  ロシア、帝室ガラス工場  1790−1800年


花器  ロシア、帝室ガラス工場  1830年代後期−1840年




 ロシアガラスの魅力。ガラスの展覧会といえば、ヴェネツィア・ガラスやアール・ヌーヴォーアール・デコを中心としたフランスのガラスを扱うものが多く、ロシアガラスを体系的に紹介する展覧会はこれまでありませんでした。
 
 
 ロシアガラスの歴史は早くも11世紀前半にはじまっていますが、その技術が頂点を迎えるのは、帝室ガラス工場を中心に多くのセルヴィス(晩餐会用の食器セット)や装飾品が作られるようになった18世紀後半から19世紀にかけてです。宮廷での公式行事や外交の場での贈答品などに用いられるため、エングレーヴィングや金彩などにより紋章やエンブレムを繊細に描いたものが多く、リボンや花綱などのロココ様式の装飾も好まれました。
 
 
 魅力的な「ルビー・ガラス」もまた、ロシアガラスの精華といえます。製造時に金を用いて赤いガラスを作る技法は17世紀ドイツにおいて発明されていましたが、その技術は秘密とされやがて失われていたため、ロシアでは科学者ミハイル・ロモノーソフが18世紀半ばに実用化させました。


 ロシア語で「赤い」という言葉は「美しい」と同じ語源。ロシア人にとってルビー・ガラスの輝きは、憧れてやまないものなのです。本展でももちろん、ルビー・ガラスの名品をご紹介します。



花器 1810−1820年代   ロシア、帝室ガラス工場

ゴリーツィン公爵家のセットより 1850−1860年代 ロシア、帝室ガラス工場


植木鉢のヤシの木を模した枝付燭台  ロシア、ポチョムキン・ガラス工場  18世紀後期



 愛人に贈ったガラス工場
 ヨーロッパと並ぶ文化的国家としてロシアの威信を高めた啓蒙専制君主であるエカテリーナ2世は、恋多き女帝としても知られています。その女帝を公私にわたって最も長く支え続けたポチョムキン公爵は、彼女から国営のガラス工場を贈与されました。
 ガラス工場に自ら足を運んで、その美しい輝きが生み出される魔法の工房に魅せられた女帝は、才能にあふれ創造的な内縁の夫にふさわしい贈り物として、ガラスを選んだのでしょう。そしてこの工場で、宮廷の生活や政治のかけひきの場を彩る、数々のガラスが作られたのです。この工場は後に帝室ガラス工場と名前を変え、ロシアのガラス生産を牽引していきます。



エミール・ガレ  《ヒキガエルとトンボを描いた花器》  フランス、ナンシー  1888年




 冬宮のゴージャスな生活
 エルミタージュ美術館は5つの建物からなる巨大な美術館ですが、その本館は以前、ロマノフ王朝が冬季の宮殿として使用していた「冬宮」でした。そのため、「冬宮」で使用されていた装飾品などが、そのままエルミタージュに収蔵されているのです。これらの装飾品から、当時の皇帝や貴族のゴージャスな暮らしを伺い知ることができます。





 ガレの名作
 アール・ヌーヴォーを代表する自然主義的・象徴主義的な工芸作家として知られるエミール・ガレ。その評価は1889年パリ万国博覧会でガラス部門グランプリを受賞したことで、不動のものになりました。本展では同万博に出品された花器を展示いたします。




 本展出品作には、人の姿や顔が描かれたものがたくさんあります。皇帝や貴族の権勢を示すためのポートレートの他、民衆の風俗や当時の人々にとってエキゾチズムを感じさせるモチーフであった東洋人の姿なども、ガラス職人たちのお気に入りの題材でした。


 宝物を大事そうに握りしめる王様や、堂々たるポーズで果物を差し出す女性など、ゆかいな人たちを展示室の中で探してみてください。 お子様向けには、動物を探すワークシートをご用意しております。プリントアウトしてお使いください。