Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

芸術、美術、展覧会の紹介をしています。

シャヴァンヌ 水辺のアルカディア 神話世界

artscene2013-10-23




諸芸術とミューズたちの集う聖なる森(部分)
1884-1889頃 油彩・Canvas
シカゴ美術館 93*231cm
Potter Paler collection 1922-445



 19世紀フランスを代表する壁画家として知られるピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(1824-1898)は、フランスの主要建造物の記念碑的な壁画装飾を次々と手がけ、また壁画以外の絵画においても才能を発揮し、数々の名作を残しました。

 イタリアのフレスコ画を思わせる落ち着いた色調で描かれたそれらの作品は、古来、桃源郷と謳われて来たアルカディアを彷彿とさせ、格調高い静謐な雰囲気を湛えています。また、その含意に満ちた奥深い世界は、象徴主義の先駆的作例と言われています。

古典的様式を維持しながら築き上げられたシャヴァンヌの斬新な芸術は、新しい世代の画家にも大きな影響を与えただけでなく、日本近代洋画の展開にも深く寄与しました。本展はこの巨匠を日本で初めての紹介する貴重な機会といえましょう。




2014年1月2日(木)−3月9日(日) 開催期間中無休

http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/14_chavannes/index.html

開館時間

10:00−19:00(入館は18:30まで) 毎週金・土曜日21:00まで(入館は20:30まで)



会場

Bunkamuraザ・ミュージアム
http://www.bunkamura.co.jp/museum


交通案内


主催

Bunkamura日本経済新聞社



後援

在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本



協力

エールフランス航空、日本航空



企画協力

島根県立美術館



特別協力

東京国立博物館




巡回

2014年3月20日−6月16日 島根県立美術館



チケット情報

入館料

入館料(消費税込)
一 般 1,400円
大学・高校生 1,000円
中学・小学生 700円


◎団体は20名様以上。要電話予約(申込み先:Bunkamuraザ・ミュージアム Tel. 03-3477-9413)


◎学生券をお求めの場合は、学生証のご提示をお願いいたします。(小学生は除く)


障害者手帳のご提示で割引料金あり。詳細は窓口でお尋ねください。







19世紀フランスを代表する壁画家ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(1824-1898)は、リヨンに生まれました。1846年22歳のときにイタリアを旅し、画家になる決意を固めます。2年後この地を再訪すると、ジョットやピエロ・デラ・フランチェスカなどの清涼で典雅な初期ルネサンスの壁画に深い感銘を受けました。一方パリで、アンリ・シェフェールドラクロワ、トマ・クチュールに短期間師事し、1848年に会計監査院の壁画装飾を完成させたシャセリオーに心酔していきます。1854-55年には、兄エドゥアールが北フランスのブルシィに新築した邸宅の食堂のために、初めての壁画装飾を制作しました。その壁画のひとつを再制作した≪狩猟からの帰り≫で、1859年のサロンに9年ぶりに再入選すると、美術批評家テオフィール・ゴーティエは、彼の壁画装飾という天職にいち早く着目します。そして、1830年代以降、ドラクロワからシャセリオーへ受け継がれてきた公共建築の壁画装飾という課題を、1860年代以降は、シャヴァンヌが引き継いでいくこととなるのです。





第2章 公共建築の壁画装飾へ、アミアン・ピカルディ美術館 1860年

《幻想》 1866年 油彩・カンヴァス 大原美術館蔵 264 x 147.6 cm


1861年、シャヴァンヌはサロンに≪コンコルディア(平和)≫と≪ベルム(戦争)≫を出品して、歴史画部門第2席を獲得し、前者が国家買上げの栄誉を受けました。この2作は、対となる≪労働≫と≪休息≫とともに、1864年ピカルディ美術館に設置され、初の公的な仕事となります。その後1888年まで20年以上続く、一連のピカルディ美術館壁画装飾は、壮大なピュヴィス・ド・シャヴァンヌ・ギャラリーを形成します。ウェルギリウスの『牧歌』・『農耕詩』に謳われたアルカディアを描き、公共建築の装飾にふさわしい高貴で静謐な「偉大なる単純さ」をもつ古典主義の作風を成熟させていきました。壁に穴をうがつような極端な遠近法をさけ、建築と調和するフレスコを思わせる艶消しの色調を用い、壁画装飾の美学を貫いていったのです。1860年代末からは、のちに印象派を形成する画家たちとも親交をもち、そのパレットは、次第に明るい色彩を放っていきました。




第3章 アルカディアの創造 リヨン美術館の壁画装飾 1870-1880年

《海辺の乙女たち》 1879年頃 油彩・カンヴァス オルセー美術館蔵 61×47cm

RMN-Grand Palais (Musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF - DNP artcom



1870-71年の普仏戦争、続くパリ・コミューンにより、パリの街は壊滅的な打撃を受けました。廃墟と化した光景を前にして、切実に平和を希求したシャヴァンヌのアルカディア(理想郷)は、伝統を離れ、自らの独創によって、より深く、より豊かに発展を遂げていきます。1870-80年代、パンテオン、ピカルディ美術館、リヨン美術館、などの壁画装飾を次々となし、まさにフランスを代表する壁画家となっていくと同時に、≪海辺の乙女たち≫や≪貧しき漁夫≫など、タブロー画の重要作を生み出したのです。あくまで平面として画面を構築していく壁画の美学が、絵画とは「裸婦や軍馬である前に・・色彩に覆われた平坦な面である」(モーリス・ドニ)という次代の課題「自律する絵画」を先取りする役割を果たしました。さらに、シャヴァンヌの描き出す夢の世界は、ギリシアローマ神話などの伝統的な図像からも離れ、自らの理念や感情を独自の形態によって表現する象徴主義の画家たちの先駆者という位置をもたらしたのです。そして、印象派以降の前衛画家たち、ゴーガン、ゴッホ、スーラらに大きな影響を与えていきました。



≪プロ・パトリア・ルドゥス(祖国のための競技)≫
普仏戦争以後の国の防備を象徴する、槍投げの練習をしているピカルディの若者たちが描かれています。 アミアン美術館階段の壁面を飾った《プロ・パトリア・ルドゥス(祖国のための競技)》の縮小版で、横幅280cmと大きいですが、本作にはかつて切り取られた右端125cm(《プロ・パトリア・ルドゥス(祖国のための競技)》もしくは《家族》)があり、両者は100年以上たった今、切断後に本展ではじめて出会います。


《プロ・パトリア・ルドゥス(祖国のための競技)》 1885-87年 油彩・カンヴァス 個人蔵 94×280 cm





《プロ・パトリア・ルドゥス(祖国のための競技)もしくは家族》 1885-87年頃 油彩・カンヴァス トレド美術館蔵 94×125cm
Purchased with funds from the Libbey Endowment, Gift of Edward Drummond Libbey. 1951.313




第4章 アルカディアの広がり パリ市庁舎の装飾と日本への影響 1890年代
1891年、シャヴァンヌは国民美術協会の会長に就任します。また、ルーアン美術館、パリ市庁舎、パンテオンの最終作、さらに、アメリカのボストン公共図書館などの壁画装飾の依頼にも応えて制作し、まさに名実ともに画壇のトップとなりました。1895年には、シャヴァンヌを讃える大祝宴が開催され、600人もの画家、作家、美術行政官ら、フランスを代表する人々が集いました。シャヴァンヌの名声は、フランスの枠をも超えて広まり、各国より依頼や来訪を受けました。1893年には、日本近代洋画を確立することとなる画家・黒田清輝が、助言を求めてシャヴァンヌに会っています。黒田のシャヴァンヌへの傾倒は、帰国後日本で広まり豊かな成果をもたらしました。1898年、シャヴァンヌは74歳の生涯を閉じます。




《羊飼いの歌》 1891年 油彩・カンヴァス メトロポリタン美術館蔵 104.5x109.9 cm
The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY





《慈愛のための習作》 1893-94頃 油彩、鉛筆・紙 岐阜県美術館蔵 241 x 350.5 cm

黒田清輝 《昔語り 下絵(構図?)》 1896年 油彩・カンヴァス 東京国立博物館蔵 画像提供:東京文化財研究所41.1×63.3cm *展示替えあり



シャヴァンヌ

シャヴァンヌ