Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

芸術、美術、展覧会の紹介をしています。

木造古塔の3次元立体解析

2013.09.19
国宝薬師寺東塔の構造を見える化

木造古塔の3次元立体解析を実施、優れた耐震性能を検証

清水建設(株)<社長 宮本洋一>

2010年度に奈良県教育委員会文化財保存事務所から受託し、継続実施している国宝薬師寺東塔の構造診断調査を通じ、東塔の構造を詳細に再現できる3次元(立体)構造解析モデルを構築するとともに、大地震に対して優れた耐震性能を発揮するメカニズムを検証しました。

http://www.shimz.co.jp/news_release/2013/2013035.html


薬師寺東塔は、独立した構造体を積み重ねた古来の木造古塔であり、こうした古塔を部材レベルで詳細にモデル化し解析した事例は過去にありません。このため、学術的に大きな意義があるとともに、今後の東塔の構造補強に関する議論の中で有効に活用されることが期待されます。

東塔は、奈良時代天平2年(730年)、約1300年前に建立された総高34.1mの三重塔です。1897年(明治30年)に古社寺保存法に基づき特別保護建造物に、また1950年(昭和25年)に同年制定の文化財保護法に基づき国宝に指定されています。現在、経年による軒の垂下、及び各部の損傷が大きくなったことから、2009年から2018年までの予定で解体修理が進められています。

明治時代にも根本修理が行われていますが、東塔全体を一旦解体しての修理は行われていません。そこで奈良県文化財保存事務所は、今回の東塔の保存修理事業の中で、解体調査を通じて構造形式を明らかにし記録に残すために、構造診断調査を企画。建設会社や設計事務所から公募した調査技術提案を審査して、当社に調査業務を委託したものです。

モデル化に当たっては、明治時代の修理時に製作された図面を参照しつつ、実際に組み上げられている部材を一つ一つ現地で確認しながら構造に影響を与えるものをすべて拾い上げていきました。こうした地道な作業を1年以上続けた結果、部材の節点数3,236、各節点の解析上の自由度の合計が19,194となる詳細モデル(立体図)を構築することができました。

 このモデルは、木造古塔の構造上の特性を精度高く反映しています。古来の木造古塔の構造形式は、各屋根を境に一層ごとに独立した構造体を積み重ねた構成になっており、三重塔の東塔の場合は、各々に裳階屋根を備えた三つの独立した構造体が積み重なっています。この構造形式のポイントは、屋根を支える垂木という斜材が丸桁(がぎょう)という受け材を支点にして、大きくはね出している軒屋根の重量と上部構造の重量とをバランスさせていることにあります。こうした力の関係を軒廻りの変形性状も計測しながらモデルに反映しています。さらには、解析精度を高めるために東塔の振動特性を微振動計測により把握し、モデル化に反映しています。微振動計測では、地表と各層、相輪に設置した速度計による計測により、東塔固有の振動特性を明らかにしました。

こうして構築した3次元モデルを用いて、東海・東南海・南海3連動地震奈良盆地の断層を震源とする直下型地震が発生した場合の東塔の揺れを解析。その結果、一部に損傷が生じる可能性はあるものの、倒壊の可能性が少ないことが判明しました。CGで見える化した東塔の挙動を見ると、積み重ねられた各重が複雑に揺れる様子や、内部の心柱が塔本体の構造とは逆の方向に動く瞬間があることがわかります。

古塔の3次元モデル化はもとより、地震時挙動のCG化はこれまで例がなく、極めて重要なデータです。構造診断調査は2014年度一杯まで継続される予定であり、今後の解体調査で得られる知見を更に3次元モデルに組み入れて解析の精度を一層高め、東塔の保存修理事業に貢献していく所存です。



≪参 考≫
節点と節点の自由度の意味
節点とは構造体である木材同士の交点を示す。節点の自由度とは各交点における各木材の挙動(動き方)を示し、X・Y・Z方向とX・Y・Zを軸とする回転の最大6通りの挙動を評価する。