Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

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水中写真家、ドルフィンスイマー

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 夫婦でイルカを中心に海洋自然写真を撮影している水中写真家、ドルフィンスイマー、鈴木あやのさん。今は引っ越ししたかもしれないが、以前に武蔵野市民として紹介されていた。

 明後日、今週日曜、7月28日の22時、テレビ東京系のソロモンで紹介される。


 大切な人と共に生きようドルフィンスイマー 鈴木あやのさん(武蔵野市

 http://ayanoo.com/

 
 http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyotama/feature/hachioji1325488062967_02/news/20120109-OYT8T00012.htm


 東京から南へ200キロ、黒潮本流の真っただ中にある御蔵島。波間に揺れるイルカ船から海に潜った鈴木あやのさん(32)が、深さ5メートル付近で斜め左方向に浮き上がり、あおむけに泳ぎながらイルカの群れに近づいた。5メートル離れた所では、夫福田克之さん(40)がカメラを構えている。

 やがて船上に戻り、モニター画面で写真を確認すると、2人の笑顔がはじけた。人魚のような美しい泳ぎをする鈴木さんと、無邪気に戯れるイルカの曲線美が絶妙な構図で収まっていた。

 「こんなに絵になる泳ぎ、見たことない」。ダイビング歴30年の平田五寿芽(いずめ)さん(47)は、鈴木さんの泳ぎに脱帽した。目でイルカを引き寄せる力が抜群で、男性でも使いこなすことが難しい足ひれ「バラクーダ」(長さ75センチ、両足で重さ3キロ)を自在に操り、指先の形まで美にこだわる。

 イルカの写真は多々あるが、イルカと人が同調した構図の写真は珍しい。イルカが見せるしぐさ、表情が魅力的で、見ていると、イルカの行動と生態に関心が湧いてくる。

 鈴木さんと福田さんは御蔵島小笠原諸島、海外の島を巡り、2人ならではの写真や映像を制作。「自分を救ってくれたイルカと、海の美しさをたくさんの人に伝えたい」。それがドルフィンスイマーの仕事だという。しかし、現在に至るまで、鈴木さんには紆余(うよ)曲折があった。

      ◎

 子供の頃から生物に興味があった鈴木さんは東大大学院に籍を置き、研究の道を歩んだ。楽しかった反面、続けていく自信がなく、親の意見を聞き入れ、大手化学薬品会社に就職。酵素の研究に従事した。だが、仕事にやりがいは感じなかった。

 その後、成果が形になる仕事がしたいと大手食品メーカーに転職、商品開発を手がけた。一方で定時退社後、友人が設立したベンチャー企業でも働いた。がむしゃらにやりがいを求めたが、その都度、自分の能力のなさを思い知らされ、落ち込んだ。「本当は何をやりたいのか」。袋小路に入り2007年に休職、自宅に引きこもった。

 そんな時、たまたま行った小笠原諸島父島でイルカと出会った。海にもイルカにも興味がなかったが、間近に寄って来る愛らしい姿を見て「恋に落ちた」。同時に、雄大な自然と無邪気なイルカの表情を見て、心が解放された。

      ◎

 思うがままに進めばいい。そう分かると、仕事を辞め、イルカの気持ちに近づきたいと、素潜りの練習に打ち込んだ。08年夏、御蔵島でイルカを見るツアーに参加、福田さんと出会う。福田さんが撮ったイルカと泳ぐ鈴木さんの写真の出来栄えがよく、写真を欲しがる鈴木さんと会話がはずんだ。

 福田さんは半年前、乳がんで前妻を失い、「もう死んでもいい」と無気力な状態で、その前に前妻が好きだったイルカを見に行こうと決めた、傷心旅行だった。この時、福田さんの心に変化が生じたという。「まだ自分には人の役に立つ力が残っている」

 2人が急接近したのは、09年2月。都内のラーメン店で、福田さんから前妻の思い出話を聞き、「こんな風に愛されたら幸せだろうな」と鈴木さんは感じた。福田さんも、涙を流しながら話を聞いてくれた鈴木さんに好意を持った。

 鈴木さんは、福田さんと出会った08年の年末に別の男性と結婚していた。「仕事に行き詰まり、逃げるようにした結婚だった」。鈴木さんは離婚し、その1年後の4月、福田さんの誕生日に再婚した。

 今までは出来て当たり前と周囲に思われ、褒められることの少ない人生だった。だから出来ない自分に悩んだこともあった。そんな鈴木さんを福田さんが変えた。「福ちゃんは相手のいいところを見つけて褒める。絶対的な安心を与えてくれる人」だという。

 福田さんは、水中で鈴木さんの魅力を引き出すため、カメラに改良を加えている。総重量は4キロ。鈴木さんよりも酸素を多く消費するため、素潜りの時間を延ばそうと、毎日20キロ走りこむ。

 当時、離婚に反対していた母親は福田さんが撮影した写真を見て、こう言った。「愛がある写真だね」。それは背に太陽の光を浴び、鈴木さんとイルカが見つめ合う姿だった。

 鈴木さんは震災後、収益の一部を義援金にするポストカード販売の企画に参加し、メッセージを書き込んだ。「大切な人と共に生きよう」。つらいこともあるが、共に歩んだ思い出があれば、人は生きていけるという思いを込めた。鈴木さんが大切に思うイルカと海。その関係は、そのまま2人に当てはまるのかもしれない。

(2012年1月9日 読売新聞)