Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

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生誕150年 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語

artscene2013-01-17



 グスタフ・クリムト(1862−1918)はウィーンの世紀末美術を代表する画家です。クリムト独自の甘美で装飾的なスタイルは、今なお多くの人々を魅了し続けています。
 1990年に愛知県美術館に収蔵された《人生は戦いなり(黄金の騎士)》(1903年)は、日本の公立美術館で初めて収蔵されたクリムトの絵画作品です。世界各地で開催されてきた重要なクリムト展にたびたび出品されたこの作品の存在は、今や世界的にも広く知られています。本展では、様々な側面を検証することで、この作品にまつわる物語をひもときます。

 国内外のコレクションによるクリムトの油彩画約10点、素描約30点を中心に展覧される本展は、クリムト芸術の新たな側面を発見できるまたとない機会となるでしょう。
 なお、本展は愛知県美術館の開館20周年を記念して開催されます(出品作品数は、会場により異なります)



生誕150年 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語
公式Facebookページ  https://www.facebook.com/KlimtGoldenRider







協賛 トヨタ自動車 アイシン・エィ・ダブリュ


主催 愛知県美術館 中日新聞社 東海テレビ放送(愛知展) 長崎県美術館 西日本新聞社(長崎展) 宇都宮美術館(宇都宮展)

協力 オーストリア航空 ルフトハンザ カーゴ AG 日本航空

後援 オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム ウィーン市観光局 ウィーン在日代表部





http://event.chunichi.co.jp/klimt


愛知会場
会期 2012年12月21日(金)−2013年2月11日(月・祝)
休館日 毎週月曜日(ただし12月24日[月・振]、2013年1月14日[月・祝]、2月11日[月・祝]は開館)

会場 愛知県美術館愛知芸術文化センター10階) 
tel:052-971-5511(代) fax:052-971-5604

開館時間 10:00−18:00 金曜日は20:00まで(入館は閉館30分前まで)

主催 愛知県美術館中日新聞社東海テレビ放送
後援 愛知県・岐阜県三重県名古屋市教育委員会
協力 JR東海近畿日本鉄道


長崎会場
会期 2013年2月22日(金)−2013年4月7日(日)
休館日 2013年2月25日(月)、3月11日(月)、25日(月)
会場 長崎県美術館 tel:095-833-2110 fax:095-833-2115
開館時間 10:00−20:00(入場は閉館の30分前まで)
主催 長崎県長崎県美術館西日本新聞社、KTNテレビ長崎
後援 長崎県教育委員会長崎市教育委員会長崎県立長崎図書館、長崎市立図書館、
NHK 長崎放送局、長崎ケーブルメディアエフエム長崎
後援 アダチ産業株式会社


宇都宮会場
会期 2013年4月21日(日)−2013年6月2日(日)
休館日 毎週月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌日休館)、祝日の翌日(ただし土曜・日曜・祝日の場合は開館)
会場 宇都宮美術館 tel:028-643-0100 fax:028-643-0895
開館時間 9:30−17:00(入館は16:30まで)
主催 宇都宮美術館、東京新聞






 「黄金の騎士」は、当時のウィーンの旧弊な美術界と戦い、自由で新しい芸術を生み出そうとしたクリムト自身を投影したイメージです。
 クリムトの作品に戦う人物像が初めて登場したのは、ウィーン分離派展第1回目のポスター。その後、ウィーン大学のために制作した装飾壁画が批判の的となったクリムトが制作した「ベートーヴェン・フリーズ」には、幸福を求めて戦う黄金の騎士が登場します。そしてこの壁画の延長線上にあるのが《人生は戦いなり(黄金の騎士)》です。また、アルブレヒト・デューラーの《騎士と死と悪魔》は、この作品の図像学上の源泉とされます。さらに1911年に完成した「ストックレー・フリーズ」も騎士をモティーフとしていますが、装飾模様で埋め尽くされた抽象的画面に騎士の姿ははっきりとみとめることはできません。こうしてクリムトは、現在では誰もが知っている、独自の装飾的な絵画様式を打ち立てたのです。


アルブレヒト・デューラー《騎士と死と悪魔》1513年 個人蔵 死神や悪魔に付きまとわれながらも、わき目もふらず前進する騎士に、クリムトが理想とした芸術家像が重なります。


グスタフ・クリムトベートーヴェン・フリーズ「武装した強者への懇願」》『ヴェル・サクルム』1902年11号172頁 宇都宮美術館蔵 第14回分離派展で分離派館の壁画を装飾したこの作品は、ベートーヴェンの第九交響曲をモティーフに制作されました。


グスタフ・クリムト《第1回分離派展ポスター》(検閲前) 1898年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵 上部に描かれているのは、怪物ミノタウルスを退治する若き英雄テセウス。1897年に美術界の刷新のために集まったウィーン分離派の芸術家たちのリーダーとなったクリムトは、グループのマニフェストとしてこのポスターを制作しました。



2.「ストックレー・フリーズ」に囲まれた華やかな空間

 ブリュッセルの実業家アドルフ・ストックレーは、自宅の建築をヨーゼフ・ホフマンに依頼しました。そしてクリムトはこのストックレー邸の食堂壁の装飾画をデザインします。
 実際のストックレー邸は、ホフマンが主催する建築・デザイン集団「ウィーン工房」によって制作された家具が備えられ、当時のウィーンのデザインスタイルを体現しています。
グスタフ・クリムト《ストックレー・フリーズ》下絵 1908-10年 オーストリア工芸/現代美術館蔵 Photo:?MAK/Georg Mayer ※この作品は、実物大複製での展示となります。



3.クリムト初期の作品が充実

 本展はクリムト独自の装飾的な様式が確立される以前の作品が多く出品されます。鳥や花を描いた学生時代の素描からは、クリムトがすでに非凡な描写力を持っていたことがわかります。この学生時代からクリムトの画歴は始まっており、ウィーンのリンク大通り沿いに建設されたブルク劇場や美術史美術館を始め、帝国内各地の公共建築の壁画を古典的で甘美な様式で描きました。こうした壁画家としての経験は、後に「ベートーヴェン・フリーズ」や「ストックレー・フリーズ」で活かされることになります。一方で、クリムトにとって重要なジャンルのひとつになる風景画もこの時代から描き始めています。
グスタフ・クリムト《森の奥》1881-82年 飛騨高山美術館蔵
グスタフ・クリムト《詩人とミューズ》1884年頃 個人蔵 クリムトが最初期に描いた天井画のための習作と考えられています。



4.ウィーン工房 女心くすぐるジュエリーは必見!

 クリムトが《人生は戦いなり(黄金の騎士)》を描いた1903年は、ウィーン工房が設立された年。工芸を芸術的レベルへ引き上げることを目的としたこの工房では、手の込んだ水準の高い作品が数多く制作されました。本展で展示するウィーン工房の家具や食器に、金の多様や正方形のデザインなど、《黄金の騎士》との共通点も発見できるでしょう。
 そして、ウィーン工房の作品群の中で必見なのは、繊細で美しいジュエリー。クリムトが恋人エミーリエ・フレーゲにプレゼントしたブローチも展示します。アメジストオパール、サンゴなどの宝石に彩られたジュエリーに、女心がくすぐられることまちがいなし!
(左)ヨーゼフ・ホフマンのデザインによるブローチ 1905年 個人蔵 (c)Courtesy Galerie bei der Albertina-Zetter,Wien (右)ヨーゼフ・ホフマンのデザインによるブローチ 1910年 個人蔵 (c)Asenbaum Photo Archive
(左)ヨーゼフ・ホフマン《テーブルと肘掛け椅子》1908年 飛騨高山美術館蔵 (中)コロマン・モーザー《虹彩ガラスのシャンデリア》 1900年頃 飛騨高山美術館蔵 (右)コロマン・モーザー《食器棚》1903年 大阪市立近代美術館建設準備室蔵



5.クリムト晩年の代表作  ワシントン・ナショナル・ギャラリーから日本初公開
グスタフ・クリムト《赤子(揺りかご)》1917-18年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵 Image courtesy of the National Gallery of Art, Washington


 ワシントン・ナショナル・ギャラリーから本展に出品される《赤子(揺りかご)》(1917年)は、クリムトが55歳で亡くなる前年に描かれた晩年の大作で、今回日本初公開となります。赤子は衣服の装飾の渦に埋もれるように頭部だけをのぞかせ、見下ろす視線を鑑賞者に投げかけます。その視線に出会う時、私たちはこの作品に吸い込まれるような感覚を覚えるでしょう。



2012年はクリムト・イヤー

 2012年はクリムト生誕150年にあたります。生地ウィーンでは、美術館・博物館・ギャラリーなど都市全体で、クリムトに関する企画が目白押し!
 その中の一つ、《死と生》(1910/1911年、1915年加筆)をはじめとするクリムトの主要作品を有するレオポルト美術館では、「クリムトの素顔:絵画‐書簡‐内面」という特別展が開催され、その展覧会に愛知県美術館所蔵の《人生は戦いなり(黄金の騎士)》が出品されました。また日本におけるクリムト生誕150年記念展の開催にあたり、レオポルト美術館からクリムトの貴重な風景画《アッター湖畔》(1900年)の特別出品が決定しました。



クリムトの世界

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