Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

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人間国宝 大坂弘道展」 正倉院から甦った珠玉の木工芸

artscene2012-12-11



木工芸品というと菓子器や盆、手箱など使用を目的とした身近な作品を思い浮かべるでしょう。日本伝統工芸展の木工出品作を見渡してみても、大半が丸い盆と四角い箱で占められていること、つまり、木そのものの味わいを生かし“用の美”を意識した上質な“生活工芸”作品であることがわかります。


柳宗悦が戦前に提唱した民藝運動がくまなく流布し、加えて近年の白洲正子の視点や骨董ブームが反映しているのでしょう。大坂弘道の木工作品はまさにその流れに逆行するものです。王朝風の工芸と呼ぶその作品は、経筒(きょうづつ)や香盤(こうばん)など生活用具とはほど遠く、中近東や西域に由来するエキゾチックな形に、金属象嵌や透かし彫りで精緻な装飾が施されています。そうした大坂作品の源は正倉院にあります。正倉院に伝わる宝物、その多くを占める箱類はどれも見事な装飾が施されているものの、大半が用途の知れぬ空箱であるという不可思議な事実は大坂の創作に通底するものです。40 歳頃より正倉院宝物の調査を許されるのと同時に、宮内庁より復元模造を委嘱され、およそ5年の歳月を費やして「紫檀画箱」を完成し、正倉院に納めています(この試作版を今回展示)。


以来、正倉院宝物の調査、研究は30数年に及び、例えば、失われた技法を復元した錫象嵌は唐草や花鳥の文様を精緻に象嵌する表現へと独自の進化を遂げています。日本工芸会を退会してから大坂の技巧、創造力は加速度を増し、それまでの伝統木工芸にはなかった染めと金属象嵌と透かし彫りを一つの作品にアレンジするといった独自の表現、独特の雰囲気を醸し出していきますが、一方で、徐々に作品の公開を抑え、2003 年以降は一切、作品の公開を行っていません。つまり、近作約20点は誰も見たことのない、未知の領域ともいえる作品群になっています。伝承技術による伝統工芸、民藝より連なる生活工芸、モダンアートの領域に括られる工芸未来派などとは、一線を画した孤高の木工作家、大坂弘道の復古王朝風の超絶技巧をご堪能ください。

独学で失われた技法を再現した人間国宝

東京の練馬区立美術館の常設展示室

開催期間 2013年2月11日まで



本展では、大坂氏が宮内庁からの要請を受けて、失われた技法を再現させることで、1986年に復元に成功した正倉院宝物の「紫檀画箱(したんもくがはこ)」の試作品など多くの作品を展示。1997年に重要無形文化財保持者=「人間国宝」に認定されている巨匠の40年に渡る活動が生み出した作品群が語る歴史を感じてみたい。


1月には、大坂弘道氏による講演会や、ベテラン声優の銀河万丈氏による宮部みゆき作品の読み語りといったイベントも企画されている。なお、1月に予定されている各イベントは事前申込が必要。


練馬区立美術館
東京都練馬区貫井1丁目36番16号




人間国宝 大坂弘道展 正倉院から甦った珠玉の木工芸
http://www.city.nerima.tokyo.jp/manabu/bunka/museum/




大坂弘道(おおさか ひろみち)(1937生)

1997年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された練馬区在住の木工芸作家。


鳥取県倉吉市に生まれた大坂は東京学芸大学美術科卒業後、練馬区内の中学校で教員を務め、34歳頃から本橋玉斎、氷見晃堂(ひみ こうどう)(1906−75、人間国宝)、竹内碧外(たけうち へきがい)(1896‐1986)らに師事、薫陶を受け、唐木細工、指物などの木工技法を独学し研鑽を積みます。


1980年に宮内庁から正倉院宝物の模造を委嘱されてより、教員を辞して調査・研究に没頭、試行錯誤を重ね、ついに失われた技法の再現に成功。1986年「紫檀画箱(したんもくがはこ)」の復元模造を完成し、正倉院に納めています(この試作品が当館に寄託され、今回出品されます)。


2003年を境に大坂は作品を公開しておらず、近作の約20点は未知の領域ともいえる作品群です。その初公開と目を見張る変貌ぶりも本展の見どころの一つです。
40年に亘る制作活動から生み出された作品のほとんどにあたる、45点が当館に寄託されたことを記念して60点の作品で大坂木工の全貌を紹介するものです。




会期  平成24年11月29日(木曜)から平成25年2月11日(月曜)

会場  練馬区立美術館 常設展示室

休館日  
月曜日(ただし12月24日、1月14日、2月11日(月曜)は祝日のため開館、翌日休館)
Closed on Mondays

開館時間  午前10時から午後6時(入館は午後5時30分まで)


観覧料  無料 Entrance Fee: free , 0 yen


神代杉木画箱 1979年


イベント
1 学芸員によるギャラリートーク
12月1日(土曜)、2月2日(土曜)
両日ともに午後3時から約30分間
場所 常設展示室
事前の申込みは不要です。



2 大坂弘道氏によるアーティストトーク
12月8日(土曜)午後3時から約30分間
場所 常設展示室
事前の申し込みは不要です。



3 声優、銀河万丈による読み語り
要事前申込

【日時】 1月12日(土曜) 午後3時から4時半
【場所】美術館視聴覚室
【対象】 高校生以上
【定員】 70名(抽選)
【読み語り題目】 宮部みゆき「幻色江戸ごよみ」より「紅の玉」ほか
【申込締切】 12月14日(金曜)必着



4 特別講演会 「大坂弘道の木工芸とその現在」
要事前申込
【日時】 1月19日土曜 午後3時から午後4時半
【場所】美術館視聴覚室
【対象】 中学生以上
【定員】 70名(抽選)
【講師】 諸山正則(東京国立近代美術館 主任研究員)
【申込締切】 12月26日(水曜)必着



5 大坂弘道氏講演会「 正倉院宝物と私−三十数年に渡る宝物との関わりから」
要事前申込
【日時】 1月26日(土曜)午後3時から午後4時半
【場所】美術館視聴覚室
【対象】 中学生以上
【定員】 70名(抽選)
【申込締切】1月11日(金曜)