Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

芸術、美術、展覧会の紹介をしています。

「ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」

artscene2012-12-01



11/1 Thu - 12/16 Sun

根津美術館


 扱いが極めて難しい漆を和紙の上に画材として用いて描く「漆絵」を発明し、漆工芸、絵画においても独自の地位を確立した天才的な蒔絵師、柴田是真(1807〜1891)。その卓越した技術、意表を突く芸術は、国際的にも高く評価、注目されている。

 

 根津美術館にて是真の業績を約120点の作品で紹介。うち47点が初公開。海外コレクションは今回はなく、全てが国内の所蔵作品。国内の作品のみで構成された是真展は30年ぶりで、非常に珍しい。

  
 若冲と同じくその作風には「神は細部に宿る」。驚異的な技法が用いられている。
「ZESHIN展」展示室風景

 会期中、一部展示替えがあります。


前期:11/1〜11/25

後期:11/27〜12/16



「ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:11月1日(木)〜12月16日(日)

休館:月曜日
時間:10:00〜17:00

料金:一般1200円、学生(高校生以上)1000円、中学生以下無料。


港区南青山6-5-1


交通:
東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。






 
「大橘蒔絵菓子器」

蓋の表には、江戸時代に東南アジアからもたらされた果物のザボンを、細かな蒔絵に螺鈿を敷き詰めて表現しています。




「大橘蒔絵菓子器」 中野邸美術館

そしてここでは漆の塗りにも要注目。まずは黒い部分から。実は通常の漆塗りの工程とはやや異なり、磨きをより際立たせた方法を用いています。

また茶色の箇所は銅の質感を模した是真の得意の技法。またブロンズを模した青銅塗りも使われています。

これらをまとめて「変塗」(かわりぬり)と呼びますが、言わば限定された漆の色を解放し、カラフルな色を表現したのも、是真の業績の一つなのです。

続いて「烏鷺蒔絵菓子器」も。互い違いになった箱に烏と鷺の対峙する様子を描いています。




「烏鷺蒔絵菓子器」 東京国立博物館

この烏は黒蒔絵、そして鷺はやや変色していますが銀です。烏と鷺は御伽草子の「鴉鷺合戦」にも登場する伝統なモチーフですが、是真はそれをモダンな変わり箱に落とし込み、斬新な作品へと転化させました。

ちなみに是真は授業時代から蒔絵師を志しますが、一時は絵画修行のため、四条派に弟子入りしています。さらに彼はこれまで分業だった下絵と漆工を一体化。双方とも自ら手で行いました。




まさにこれこそ近代工芸の先取りでもありますが、彼が漆工、絵画の双方に通じていたからこそ、これほどの業績を残せたと言えるのかもしれません。

さて是真の技の核心へと進みましょう。それが漆による絵画、つまりは漆絵に他なりません。

やはり一押しは「漆絵花瓶梅図」。トリックアートとしても紹介されることもある作品です。


「漆絵花瓶梅図」明治14年(1881) 板橋区立美術館

さて何故これがトリックなのか。種明かしをしてしまえば、木の上に漆で花瓶を描いた、ようは板絵に見えるのも、実は全て紙に漆、ようは全てが漆絵であるのです。

つまり紙の上に変塗の紫檀塗りによって木の質感を再現、そしてさらに漆で花瓶や花を描いています。


「漆絵画帖」 三隅悠コレクション 他

もちろん木枠に見える額も漆絵。また展示では「漆絵画帖」など、小品ながらもまさに軽妙洒脱、見ごたえのある漆絵が何点も登場していました。

さてトリックと言えばもう一点、伝光琳の硯箱を模した「業平蒔絵硯箱」も重要です。



尾形光琳「業平蒔絵硯箱」 根津美術館
柴田是真「業平蒔絵硯箱」 根津美術館

有難いことに展示では伝光琳作と是真の作品を見比べることが出来ますが、単にそのまま写したというわけではないのがポイントです。

光琳作では錫の板を貼った狩衣や扇の骨の部分を、是真は錫の粉などを用いた蒔絵で表現。自らの技術を示しています。

しかももう一つ面白いところが。両作を良く見比べて下さい。経年劣化によって変色した伝光琳作の錫の板の錆び、それまでを再現していることが見て取れないでしょうか。

何と是真は既に錆びていた錫の質感を漆で表現しているのです。この創意工夫、そして発想力、強く感心させられました。

ラストに私の一押しの作品を。それが蒔絵額から一点、「月薄鈴虫蒔絵額」です。




「月薄鈴虫蒔絵額」明治10年(1877) 三隅悠コレクション

写真はおろか、実物を見ても驚くほどに闇に覆われた一枚、黒をこれほど大胆に取り込んでいることからしても特異ですが、これまたよくよく目を凝らすと満月に照らされて佇む鈴虫の姿が。

実は鈴虫はもう一匹、薄にも止まっていますが、これほど秋の情緒をどこか物悲しく、また儚げに表した作品はそうありません。

是真というとデコラティブな工芸というイメージもあるかもしれませんが、単にそれだけではない、是真の言わば詩心を見るかのような作品でした。