Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

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東洋の白い焼き物

artscene2012-09-15



純白な素地に透明な釉薬をかけて焼成することを基本とする白磁は、シンプルなものであるだけに、研ぎ澄まされた器形や、洗練された彫文様が真に求められる工芸作品です。またそれは、時代や民族の美意識を如実に反映しています。今回の展示では、出光美術館の東洋陶磁コレクションから、中国陶磁の中でも最も評価の高い宋代の白磁を中心に、中国の各時代・各地域の白磁、朝鮮や日本の白磁を一堂にご紹介し、心洗われる白磁の世界を探訪します。なお、併設として出光コレクションを代表する江戸時代の禅僧・仙の作品を展観します。




http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/present/index.html


列品解説のおしらせ


8月16日(木)、8月30日(木)、9月13日(木)、9月27日(木)、10月11日(木)
いずれも午前10時30分より


8月17日(金)、8月31日(金)、9月14日(金)、9月28日(金)、10月12日(金)
いずれも午後6時より



白く美しいやきもの――白磁は、6世紀の中葉に、中国陶磁のニューウェーブとして誕生しました。中国陶磁は、青磁を主流として発展してきましたが、初期の白磁は、北中国において、その青磁釉の鉄分を去ることによって生まれました。白い素地に透明になる釉薬をかけて高火度で焼く白磁の出現には、当時すでに盛んであった東西交流の刺激、とくに西方のガラス器あるいは銀器への憧れが動機となったとも考えられます。



白磁の発展は、磁器質の本格的白磁の出現によって加速されます。その嚆矢は唐時代の窯(けいよう)・定窯(ていよう 河北省)の白磁で、晩唐〜五代の頃には江南でも白磁生産が始まっています。宋代になると、白磁の生産は中国全土にひろがり、緊張感に満ちた峻厳な器形の宋磁にふさわしい代表的な陶磁になりました。華北では定窯白磁をモデルにして山西省陝西省安徽省遼寧省内蒙古自治区で、江南では景徳鎮(けいとくちん 江西省)を中心として福建・広東で白磁が焼かれ、その製品は海外にも販路を拡げてゆきました。



元時代、白磁は御器として宮廷用什器の中にとり入れられ、国家の祭器が、青磁に代わって景徳鎮白磁であつらえられるようになります。これは、元朝の支配層モンゴル民族が、白(「純」)を尚(たっと)んだことに起因しています。以来白磁は景徳鎮官窯で焼造されることによって、ますます洗練されてゆきました。藍釉磁器・紅釉磁器・釉裏紅(ゆうりこう)磁器、青花(せいか)磁器なども、白磁の技法のうえに生まれました。また明時代後期からの福建省徳化窯(とっかよう)の象牙色の白磁は、ヨーロッパに装飾用磁器・テーブルウェアとして輸出され、「ブラン・シーヌ(中国の白)」として称賛をあつめました。



朝鮮や日本の白いやきものは、中国白磁の影響のもとに始まりましたが、それぞれの民族の独特の受容と発展ぶりを見せます。朝鮮では、柔らかみのある肌合いの白磁が、そもそも白を尊ぶ民族意識のうえに儒教思想が厳格に受け入れられたことにより、祭器として官窯の主製品になりました。日本では、17世紀にようやく磁器が始まりますが、白いやきものとしては、美濃焼や京焼の陶器によるものが、日本的な器形の白いやきものとしてまず登場しています。その中で、本来黒釉の唐物天目の器形を白釉でおおった白天目は、日本的な自由な着想が成功した名品と言えるでしょう。



今回の「東洋の白いやきもの」展では、出光コレクションの中国白磁を中心に、さまざまな産地や時代の白いやきものによって、優れたやきものを鑑賞していただき、その魅力を存分に味わっていただくと同時に、その背景にある各民族の美意識に思いを馳せていただきたいと思います。



また、併設として出光コレクションを代表する江戸時代の禅僧・仙の作品を展観します。仙にとっての「第二の故郷、筑前・博多」の風景・風物とともに、「愛すべき自然」が教えてくれる教訓の数々をお楽しみください。




2012年8月4日(土)〜 10月21日(日)


出光コレクションから主要な陶磁器をジャンルごとにご紹介している、シリーズ第9回は、中国の白磁を中心とする“白い”やきものです。現代のテーブルウェアの世界でも、白いうつわは人気がありますが、さて、そのルーツとは・・・? 本展では、中国の各時代・各地域の白磁、さらには朝鮮や日本の白磁を一堂に展示し、心洗われる白磁の世界を探訪します。




白いやきものは、白色粘土を1,100℃程度で焼き固めた土器――中国の白陶(はくとう)が始まりとされ、商(殷)時代後期に出現しました。最初のコーナーでは、商(殷)時代の白い土器――白陶と青銅器、南北朝時代青磁白磁、唐代のガラス器・金属器と白磁、景徳鎮窯(けいとくちん)址出土の青磁白磁などによって、白いやきものが貴重な金属器や新しい材質、ガラスの写しとして採用された様子や、青磁から白磁が派生したことなど、白いやきものの発端に関わる作品をご紹介します。



白陶雷文壺片 中国 殷(商)時代後期 伝殷墟出土
東京藝術大学大学美術館蔵


白磁壺 中国 唐時代 出光美術館


次のコーナーでは陶器質の白磁を展示します。白磁(White Porcelain)なのに陶器質というのは矛盾しているようですが、6世紀以降唐時代まで、白い粘土、あるいは白くない粘土に白土を塗った上に、透明な釉薬をかけて白い器が焼き上げられました。これらは磁器原料の陶石を含んでいなかったり、焼成温度が低かったりして、厳密な意味での磁器ではありませんが、白い素地に透明釉がかけられているので、広い意味で白磁と呼んでいます。唐時代には、明器(めいき)――副葬品として、豪華な器形のものや俑(よう)が作られています。



白色の素地に透明釉をかけ、1,300℃前後で焼き上げる本格的な中国の白磁の流れは、河北省の窯(けいよう)・定窯(ていよう)の白磁から、江西省景徳鎮(けいとくちん)の白磁へと展開します。
窯では唐時代中頃に早くも陶石を用いて1,300℃前後で焼成する白磁が生まれています。それまでの陶器質の段階とは明らかに異なる白さをお確かめください。その後継である定窯では、器面に施す彫文様(刻花)や型押し文様(印花)も登場してきます。
定窯に続いて、定窯系の遼(りょう)の白磁や、江南の景徳鎮白磁が発展するのは、窯や定窯の白磁が新たな美しさを実現したやきものとして、広く支持され、需要されたことを示しています。



白磁弁口水注 中国 唐時代 窯 出光美術館


宋・元時代の景徳鎮(けいとくちん)は、白磁の基礎である陶石とカオリン土の大鉱脈に恵まれ、水運の便もあって白磁の大産地になりました。優秀な粘土の特性を生かした薄い器壁は、他の追随を許しません。この時代には青味がかった透明釉の特色を逆に生かした青白磁(せいはくじ)――影青(いんちん)が発展し、器形・文様のいずれも隙のない、白磁の粋といえる世界を現出しました。このコーナーでは当館の白磁コレクションのなかでの最も定評ある景徳鎮の白磁を特集します。



白磁刻花牡丹唐草文吐魯瓶 一対 中国 北宋時代 景徳鎮窯 出光美術館



白磁って、青磁なの? 白磁なの?
本展の作品キャプションに注目していただくと、「白磁」のほかに「青白磁(せいはくじ)」がかなりの数を占めていることにお気づきになるでしょう。
実は、青白磁白磁の一種です。五代の頃からの白磁の産地江西省景徳鎮(けいとくちん)では、純白の素地にかける透明釉にどうしても鉄分が残り、酸素を奪って焼く還元焔焼成で青味が出てしまいます。白磁ということでは、透明釉は当然無色透明であるべきなのですが、彫文様や型押文様の深い部分では釉薬が厚いため、青がより深く、浅い部分では淡くなり、なかなか美しいのです。景徳鎮ではこれを逆手にとって、宋時代から青味を生かした白磁が特産品になりました。写真のような作品に最も効果が現れています。基本は白色の素地に透明の釉薬をかけて焼く白磁なのですが、とくにこれを青白磁と呼ぶようになり、影青(いんちん)とも呼ばれます。



白磁花蓮花文深鉢 中国 北宋時代 景徳鎮窯 出光美術館


白磁花蓮唐草文僧帽形水注 中国 明「永楽年製」銘 景徳鎮官窯 出光美術館
宋代までは、宮廷の御用器、とくに宮廷の祭祀に用いる祭器は、漢民族が最も好む青磁で制作され、青磁が国の最も権威ある公式のやきものでした。


ところが元時代になると状況が変わります。元朝の支配者モンゴル族は、白(純)を最も尊び、宮廷の祭器は白磁の産地、景徳鎮(けいとくちん)の製品に変更されたのです。技術も進歩し、写真のような青味の残らない白磁、甜白(てんぱく)も開発されました。このコーナーでは白磁がついに御用器になった理由を、白磁の産地景徳鎮製品を中心にご紹介します。


このコーナーではまず、磁州窯(じしゅうよう)系の作品を展示します。磁州窯系の白釉陶器(白地陶器)は、高級な原料に高度な技術が必要な定窯白磁に対して、素地の表面に白土を塗ることによって、安価で大量に焼造された白い器です。白磁に憧れた庶民の需要層に向けたもので、こうしたものの需要の存在自体が、白磁の人気を裏書きしていますが、飾らない親しみやすいやきものとして、また別の魅力をもっています。



白地掻落花卉文盤口瓶 中国 遼時代 磁州窯系
出光美術館



白磁観音像 中国 明時代末期 徳化窯
出光美術館


明末の福建省を代表するのは、州(しょうしゅう)窯と徳化(とっか)窯の白磁です。輸出の盛んな福建省の州窯系の窯では、明末以降白土がけが見られるようになりました。一方、徳化窯では明清時代に、景徳鎮(けいとくちん)に負けない純白の白磁を焼造しました。ヨーロッパでも高く評価され、“中国の白”を意味する“ブラン・シーヌ”は、徳化窯製品を指す言葉であったのです。



白磁祭器 朝鮮 朝鮮王朝時代 出光美術館
〈10月2日〜10月21日展示〉



次に、朝鮮の白いやきものを展示します。中国陶磁の強い影響下にあった朝鮮では、白色は聖なる色として尊ばれたうえに、儒教の道徳が厳密に行われた朝鮮王朝のもとで、官窯が設けられ、白磁祭器が作られました。朝鮮白磁独特のゆったりとした器形と、やわらかみのある釉色は、中国白磁にない境地を極めています。白という共通の要素でありながら、中国の白磁との醸し出す雰囲気の違いが感じられることでしょう。


最後のコーナーでは日本の白いやきものを紹介します。美濃(みの)で展開した志野釉による白い陶器、17世紀に始まる染付や色絵の素地としての肥前磁器の白磁、そして京焼の白い陶器です。9月30日までは特別出品の重要文化財「白天目」が、10月2日〜21日は野々村仁清の水指が本展の掉尾を飾ります。



重要文化財「白天目」(徳川美術館蔵)を期間限定で特別出品


本展では、徳川美術館および東京藝術大学大学美術館のご厚意により、白天目、白磁祭器(いずれも徳川美術館蔵 8月4日〜9月30日展示)、白陶雷文壺片(東京藝術大学大学美術館蔵 全期間展示)の特別出品が実現します。 とくに、徳川美術館の白天目は、大名物で、武野紹(たけのじょうおう)から武野新右衛門(たけのしんえもん)を経て徳川義直(とくがわよしなお)所持となり、以来尾張徳川家に伝わった名品であり、我が国の茶の湯文化の中の重要な作品の一つです。器形は厳格に唐物天目を写しながら、本来黒釉で覆われるべきところを、柔らかみのある志野の白濁釉に換えています。唐物の理想型に全く異なる美意識の白い釉薬をあてはめたと考えられ、茶の湯の道具として日本人の自由な発想が生かされた、希有な作品と言ってよいでしょう。




[特別出品]
重要文化財 白天目 大名物
室町時代 美濃窯 徳川美術館蔵〈8月4日〜9月30日展示〉



今年も仙の命日(10月7日)にちなみ、本展期間中、併設展として仙の作品を展観します。今回は「第二の故郷、筑前・博多」そして、「愛すべき自然」という二つのテーマにそって、博多の祭りや九州北部の風景を描いた絵画、身の回りの様々な動植物を描いた作品、そして、それらをもとにした教訓画を、会期前半(8月4日〜9月9日)と後半(9月11日〜10月21日)、それぞれ20件ずつ、合計40件の作品を特集します。



狗子画賛 仙 江戸時代 出光美術館
〈8月4日〜9月9日展示〉


箱崎浜画賛 仙 江戸時代 出光美術館
〈8月4日〜9月9日展示〉

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開館時間午前10時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
毎週金曜日は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)


会期・開館時間等は都合により変更することがあります。最新情報は当ウェブサイトまたはハローダイヤル(03-5777-8600)でご確認ください。




休館日毎週月曜日


9月17日、10月8日は開館します

入館料
一般1,000円/高・大生700円(団体20名以上 各200円引)


中学生以下無料(ただし保護者の同伴が必要です)


障害者手帳をお持ちの方は200円引、その介護者1名は無料です