Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

芸術、美術、展覧会の紹介をしています。

浮世絵猫百景 国芳一門ネコづくし

artscene2012-07-14



歌川国芳「流行猫の曲鞠」


http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/


太田記念美術館
10時30分−17時30分
(入館は午後5時まで)


交 通:
  
  山手線・・・原宿駅表参道口より徒歩5分
   

  東京メトロ千代田線/副都心線
  明治神宮前駅5番出口より徒歩3分



休館日:
  
  ・毎週月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)

  

    〒150-0001
    東京都渋谷区神宮前1-10-10 
    TEL: 03-3403-0880  
    FAX: 03-3470-5994

● 入館料: 一般¥1000 ・大高生¥700・中学生以下無料


庶民の生活とともにあった猫。猫を描いた浮世絵は、時には時代背景をも映し出しました。絵師たちは、幕末の動乱や、西洋文化流入によって変化した生活様式などを猫の姿を借りて表現しました。


展示の図録「浮世絵猫百景ー国芳一門ネコづくしー」を 2.300円(税込)にて販売



 古今東西を問わず、私たち人間の最も身近な動物である猫。江戸時代の人々も猫をペットとして可愛がっていました。近年、猫の可愛らしい姿を捉えた写真集や動画が人気ですが、それは江戸時代にも同じだったようです。江戸庶民の生活を活写した浮世絵のなかには、飼い主のそばでまどろむ猫、じゃれつく猫の姿を多く見つけることができます。しかし浮世絵に描かれる猫は、愛らしいだけではありません。説話に登場する恐ろしい化け猫や、人間のようにふるまうユーモアあふれる擬人化された猫たちも大活躍。そのバラエティー豊かな作品群からは、猫がいかに江戸の人々の生活に溶け込み、そして愛されていたのかが伝わってきます。


 近年注目を集める歌川国芳は、そんな猫愛でる江戸っ子の代表格の一人です。家には常に十数匹の猫を飼っていたと伝えられる国芳が描く猫たちは、いきいきとして愛嬌たっぷり。今回の展示では国芳とその弟子たちの作品をはじめとする浮世絵243点が大集合します。登場する猫はなんと2321匹。人と猫が織りなす豊かな世界は、浮世絵ファンならずとも十分にお楽しみいただけることでしょう。


●「花巻人形」個人蔵(前後期展示)
● 歌川国芳「猫の当字 かつを」個人蔵(前後期展示)
●小林幾英「猫の運動尽」個人蔵 (後期展示)
洋装に身を包んだ脚の長い猫たちの姿には、維新後の西洋文化流入が反映されています。

●小林幾英「志ん板猫のおんせん」個人蔵(前期展示)
月岡芳年「風俗三十二相 うるささう 寛政年間処女之風俗」



 豊富なアイディアを駆使し猫の絵を描いた国芳。その国芳の情熱は、弟子たちにも脈々と受け継がれました。血みどろ絵で知られる月岡芳年は可愛らしい飼い猫を、子ども向けの版画である「おもちゃ絵」を得意とした芳藤は、猫が人間のように振る舞う作品群を世に送り出しました。ほかにも本展では芳幾、芳虎、芳玉、芳員、芳艶など国芳一門の絵師による作品が勢ぞろいします。絵師たちの猫の姿を見比べてみるのも楽しいかもしれません。




【展覧会構成】

第一景 猫百変化

第二景 猫の一日〜遊んで眠ってしかられて〜

第三景 猫のお化け

第四景 猫は千両役者

第五景 猫の仕事・猫の遊び

第六景 猫の事件簿

第七景 猫のまち

第八景 猫の絵本


 くるくると変わる豊かな表情、きままに動きまわる様子が猫の魅力。そんな猫の魅力に触発された浮世絵師たちのイマジネーションは、ユニークな作品を次々と生み出しました。浮世絵に登場する動物で最も多いのは猫である、と言っても過言ではないでしょう。例えば国芳は、擬人化された猫が画面せましと活躍する作品をはじめ、何匹もの猫が集まって文字を作るという奇抜なアイディアも披露しています。はては伊達男や美人の着物に猫の柄を用いたものまで手がけました。浮世絵師たちの猫に対するその発想の豊かさには、今見ても驚かされるものがあります。



●「道化肴市場」個人蔵(前期展示) 


人々の会話から、猫が飛びついている魚は「コノシロ」とわかります。コノシロは「この城」、つまり江戸城を暗示したもので、周囲の人物は薩摩藩会津藩などを見立てたもの。幕末の動乱を風刺した一図です。

歌川国芳「双蝶々曲輪日記 角力場」個人蔵(前期展示)
歌川国芳
国芳もやう 正札附現金男 野晒悟助」個人蔵(前期展示)

現在では1点しか確認されていない「流行猫じゃらし」、今回が初めての展観となる団扇絵など、国芳の珍しい作品もご紹介いたします。

小林清親「猫と提灯」太田記念美術館蔵             (前期展示)
●落合芳幾「当世見立忠臣蔵」       個人蔵(前期展示)
●「十六むさし」個人蔵(前後期展示) 
 幕末から明治半ばにかけて作られた、子供向けの版画「おもちゃ絵」。おもちゃ絵には人間のように暮らす猫をはじめ、数えきれないほどの猫たちが登場しています。また、庶民の生活を彩った土人形や、当時のボードゲームである十六むさしのなかでも、駒が猫と鼠となっている一点をご紹介いたします。

歌川広重「名所江戸百景 浅草田圃酉の町詣」太田記念美術館蔵  (後期展示)
歌川国芳「流行猫の曲鞠」 個人蔵(前後期展示)
●歌川国利「志んぱんねこ尽」個人蔵(後期展示)
歌川国芳「流行猫じゃらし」   個人蔵 (前後期展示)
歌川国芳「鏡見山」個人蔵(後期展示)
●歌川芳藤「小猫を集め大猫にする」(前後期展示)
●歌川芳藤「新版 猫の戯画」個人蔵(後期展示)


 振り返るような仕草をする三毛猫。実は、この猫は19匹もの猫たちが集まってできたものなのです。目を凝らすと猫たちが色々なポーズをとって重なり合っているのがわかります。この絵の作者である歌川芳藤は国芳の弟子の一人。物を寄せ集めて別の物を作り上げる手法を「寄せ絵」と称しますが、国芳は寄せ絵にも遊び心あふれる名作を残しています。本作から芳藤は、国芳のユーモアのセンスを多分に受け継いだ絵師であることがよくわかります。なお画中に記された文字には「猫の子の小猫を十九あつめつつ 大猫にする画師(えし)のわざくれ」とあります。「わざくれ」とは、いたずらや戯れといった意味。当時の人々にとってもユニークな作品として喜ばれたことでしょう。

 大猫の姿は少し不気味でもありますが、猫たち一匹一匹の表情はとても優しげです。芳藤は国芳からユーモアだけでなく、猫へのあたたかい眼差しも受け継いだようです。


Ota Memorial Museum of Art