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日本橋 描かれたランドマークの400年

artscene2012-06-31





江戸東京の象徴として、数多くの絵に描かれてきた日本橋。現在は、橋の下を流れる日本橋川から隅田川方面へ、江戸時代を彷彿させる舟行も復活し、日本橋周辺及びその流域地域の活性化がより一層注目を集めています。


本展は、400年以上の歴史を持つ日本橋の姿を、江戸から明治、大正、昭和に至るまでの浮世絵や版本、絵巻、そして近代版画や写真など、江戸東京博物館のコレクション約130件で紹介します。加えて、日本橋近くの版元から安永3年(1774)に出版された『解体新書』や、明治初期に橋のたもとで営業を開始し、全国へ広がった「人力車」なども展示。


いつの時代も愛された日本橋の姿を、江戸東京の歴史や文化を語る資料とともに、どうぞお楽しみ下さい。



江戸東京博物館開館20周年記念特別展 「日本橋 描かれたランドマークの400年」



会期
2012年5月26日(土)〜7月16日(月・祝)


開館時間
9:30〜17:30(土曜日は19:30まで)
※入館は閉館の30分前まで


休館日
毎週月曜日(ただし7月16日(月)は開館)


会場
江戸東京博物館 1階 企画展示室



アクセス
JR総武線 両国駅西口徒歩3分
都営地下鉄大江戸線 両国駅A4出口徒歩1分
都バス錦27・両28・門33・墨38系統「都営両国駅前」徒歩3分


主催
公益財団法人 東京都歴史文化財団 東京都江戸東京博物館朝日新聞社


協賛
野崎印刷紙業株式会社


協力
国分株式会社


問い合わせ先
江戸東京博物館 03-3626-9974 (代表)





東京都墨田区横網1-4-1
電話 03-3626-9974(代表)




 江戸という都市の中の橋として描いた絵と、街道の起点として描いた絵を紹介します。日本橋が江戸の中心部に位置付けられ、また全国各地へつながる街道の、まさに出発地点として強く認識されていたことがよくわかります。とりわけ江戸城の屋根と日本橋の姿は、江戸という地域を簡単に且つ的確に表現できる、格好のランドマークになっていたと言えます。 橋の下を流れる日本橋川も重要です。日本橋川は、海に面した隅田川につながっており、この川から様々な物資や文化が江戸に運び込まれました。逆に日本橋からこの川を下り、隅田川に合流した後、その上流に向かった舟も見逃せません。それらの舟は、江戸見物を楽しむ人や浅草や吉原に向かう人びとを運びました。都市・江戸の陸路と水路の十字路となっていた日本橋の魅力も、ここで紹介します。



東海道五拾三次之内(とうかいどうごじゅうさんつぎのうち) 
日本橋 朝之景(あさのけい)」 歌川広重
 天保(1830〜43)中頃 江戸東京博物館



 江戸と京都を結ぶ東海道の、53の宿場に江戸と京都の風景を加えた55枚揃のうちのひとつ。中央に日本橋を描き、東海道の長い旅路の幕開けを伝えるかのように、画面左右に開いた木戸を配した構図が劇的な効果を高めている。








名所絵によくみられるように、日本橋にも絵画化される上での「定番」というものが存在します。日本橋を描く際は、橋を東から眺め、その背景に江戸城と富士山を組み合わせる、というものが有名です。この構図を基本にして、さらに南側の高札場を描いたり、北側の下流で隆盛を極めた魚河岸の様子を盛り込んだりしたものが量産され、都市・江戸の繁栄を象徴する豪華な名所絵として人気を集めました。



 その一方、同じ要素を描きつつも、大胆なアングルで日本橋を描いた面白い作品もあります。また日本橋周辺に集う多くの人びとや、さまざまな場所の賑わい振りを描くなど、当時の日本橋の活気を伝えてくれる作品もあります。



 このように日本橋は江戸の一大名所として大いに描かれたのですが、同じ江戸名所として数多く描かれた隅田川と比べると、肉筆画の作品が極端に少ないことがわかります。日本橋の絵画から伝わってくる商業の熱気や幕府の権威をまとった空気が、床の間に飾るような肉筆画にはあまり馴染まなかったということかもしれません。 しかしこのような空気をまとった日本橋こそ、都市ならではの名所と言えます。この章では、江戸時代の日本橋を描いた「これぞ日本橋」といった作品群を堪能していただきます。



「東都名所 日本橋真景并ニ魚市全図
(にほんばししんけいならびにうおいちぜんず)」 
歌川広重
 天保(1830〜43)中頃 江戸東京博物館



 日本橋とその周辺地域を、俯瞰構図で広々と描いた作品。題名にもあるように、とりわけ日本橋下流北側に広がる魚市の賑わいのようすが詳しい。画中には大勢の人々の姿も描かれ、魚河岸があった日本橋界隈の賑わい振りが伝わってくる。
作品写真


「冨嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい) 江戸日本橋」 
葛飾北斎
 天保2〜4年(1831〜3)頃 江戸東京博物館



 北斎の錦絵を代表する揃物のひとつ。大胆な遠近法を用いた表現が目を引くが、この作品で最もおもしろい点は、橋がほとんど見えないほど人がひしめく日本橋を、画面手前に配したことである。北斎ならではの大胆な画面作りが魅力的な作品。



「東都名所年中行事 四月 日本橋かつお」 
 歌川広重
 安政元年(1854)
 江戸東京博物館



 季節感を添えて江戸名所を描いた12枚揃のひとつ。旧暦4月の風物詩である初鰹とともに日本橋を描いたもの。擬宝珠のある柱と二人の女性の立ち姿がすっきりと印象的で、日本橋を舞台とした美人画としても楽しめる作品。








江戸時代と変わらぬ木の橋のままで明治維新を迎えた日本橋でしたが、絵に描かれる姿は、江戸時代の定型化された名所絵から一転し、激動の時代に合わせて時々刻々と変化していくことになります。



 明治3年(1870)に営業許可を得た人力車の、日本橋の高札場横における営業開始をはじめ、明治6年(1873)の西洋型木橋への架け替え、明治15年(1882)の馬車鉄道の敷設など、日本橋は話題にこと欠きませんでした。こうして明治初期の日本橋は、文明開化の最先端をいく名所のひとつとして、鮮やかな舶来絵の具を用いた華やかな錦絵にたくさん登場します。



 この背景には、日本橋の南側に位置する新橋が、明治5年(1872)に横浜と鉄道で結ばれたことも理由にあげられます。そして明治15年には、新橋と日本橋の間に馬車鉄道が走り、同年のうちに上野、さらには浅草まで鉄道は伸びていきました。日本橋はまさに文明開化の香りあふれるメインストリート上の、最も著名な橋として輝きます。



 その一方で、レールの上を走る馬車鉄道の登場により、歩道と車道が明確に分かれることになりました。電車や車が主役となる未来の道路事情が、早くも明治期の錦絵から見て取れる点も興味深いところです。



日本橋鳥瞰図(にほんばしちょうかんず)」
筆者不詳
 明治初期 江戸東京博物館

 陰影法や遠近法を引用した洋風表現の作品で、広々とした空間が印象的。江戸後期に流行った表現であるが、高札場の横に「御免 人力車」の旗が立ち、人力車も走っていることから、人力車の営業許可が下りた明治3年(1870)以降の風景とわかる。



「東京日本橋風景」 歌川芳虎
 明治3年(1870) 江戸東京博物館



 日本橋の高札場があるが、その横に「人力車」の営業所のようなものが見える。この作品は人力車の営業許可が下りた年のもので、絵師の空想も含まれているであろうが、人力車や馬車、自転車など、さまざまな乗り物が描かれていておもしろい。




「鉄道馬車往復日本橋之真図」 三代歌川広重
明治15年(1882) 江戸東京博物館



 日本橋の上を鉄道馬車が走ったという最新情報を伝える作品。レールの上を走る客車を馬車が引いた、鉄道馬車のようすがよくわかる。日本橋は平らな西洋型木橋に変わっており、車道と歩道を分ける黒い縁石のようなものが見える。





明治44年(1911)4月3日に開通した、現在の石造の日本橋は、平成23年(2011)に架橋100年を迎えました。花崗岩を主要材料とした西洋風のアーチ橋に、青銅製の獅子や麒麟など日本人に親しまれたモチーフの装飾を施したこの橋によって、江戸時代以来の日本橋のイメージが一新します。



 江戸時代である19世紀前半の記録によれば、当時の木造の日本橋の長さは約51メートル、幅は約7.9メートル。それに比べて石造の橋は、幅が約27メートルと、3倍に以上に広がりました。



 この美しく大きな石造の橋は、近代都市・東京のランドマークのひとつとして愛され、たくさんの絵に描かれ、写真に撮られました。幸いにして関東大震災や、第二次世界大戦の空襲でも破壊されることなく残り続け、平成11年(1999)には国の重要文化財に指定されました。この章では、石造の橋が架かってからの100年の姿を振り返ります。




日本橋繁華之光景」 土屋伝
 大正15年2月(1926) 江戸東京博物館



 日本橋を中心に、明るく華やかな近代都市風景を描く。実はこの作品とそっくりな描法と構図で、関東大震災の時の日本橋付近を描いた石版画もある。震災の3年後に描かれたこの作品には、震災からの復興の喜びが込められている。



日本橋(夜明)」 
 川瀬巴水
 昭和15年(1940) 江戸東京博物館



 日本橋を飾る青銅製の角柱の高さを生かした、縦の構図が印象的な作品。石造の日本橋の美しさが見事に表現されており、日本橋川の水面や夜明けの空の繊細な表現ともあいまって、この時期の日本橋を描いた作品の代表作と言える。