Artscene 芸術の風景 -アートシーン 展覧会情報

芸術、美術、展覧会の紹介をしています。

松庵舎 蔵ギャラリー 蒼

artscene2012-03-17




〒167−0054

杉並区松庵2−18−26 蔵

 Tel 03-3331-3681

 Fax 03-3331-3682

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JR中央線

西荻窪駅から徒歩12分
 
西荻窪駅より 関東バス 立教女学院行き
吉祥寺駅北口より 関東バス 中野行き 

松庵稲荷神社前 下車 歩2分


駐車場有り 3台

 
再生した蔵の姿


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壁をはずし、位置修正の準備をしているところ。修復前は漆喰が剥がれ、痛々しい状態だった。
百年のケヤキを背景に夜空に浮かび挙がる修復中の蔵



「蔵」への想い

小さな頃、親の言うことをきかなくて閉じ込められた.。
真っ暗で、吸込まれる様に、音が無かった。

      蔵という存在に込められた想いはかつて、
その重厚さに負けないほど、大きかったことだろう。
江戸時代の開拓農村だった松庵村。
米の代わりに作っていた小麦などの作物を
貯蔵するために、この蔵は造られた。

その蔵が、関東大震災によって、
土台と建物がずれる大きな痛手を受けた。

  • 大正 5年 7月(1916) -

    
改修によって見つかった、二階東の防火扉に
記されていた完成の日から、わずかに六年後。

その後、修繕する手立もないままに、
時代の変化の中で、その有効な利用法も見い出せす
壊すことも出来ず、痛みの激しくなっていく蔵。

そしてそのまま歳月が過ぎた。

 

瀧川寺社建築との出会いは、
その蔵の再生が可能なことを示唆してくれた。
蔵としての修繕だけでなく、新しい空間として甦らせる

そのために必要とされた条件。
それが調うのを蔵はずっと待っていたのかもしれない

きっかけというものは、時として運命的なものを
含んでいるのではないか?と思う。

このままでは勿体無い。

本来、蔵の持つ優れた空間性、これを活かし味わう。
この空間はきっと、すばらしい力を発揮する。


蔵の再生

私は蔵を、
できるだけ、そのままの形で残したい、と思った。

本来の姿を復元することもでき、
蔵の空間であることを最大限に生かす為に。
ギャラリー部分は大壁にしたが、
新しい壁の下には、古いままの壁が残っている。

天井の梁も入り口の扉もそのまま。
使われていた木材はところどころ様々で、
この土地に育まれたものと想像された。

武蔵野の自然の趣を、この蔵に反映させたい。

奈良と江戸という異なる文化を互いに感じながら
乗り越え、新しく付け加えた部分と古い部分、
その調和に瀧川寺社建築の技術が生かされた。

壁の一部をはずして巨大な丸太を縦横に渡し、
ジャッキで建物全体を持ち上げ、
宙に浮かして、人力で位置を修正する。
痛んだ壁を剥がして修復する。
その仕事自体が、伝統の中に保持されてきた
すばらしいものだった。
   

私は、この空間に「蒼」 (そう)と名づけた。

「あお」 は無限の空間や
精神性・神秘性を感じさせる私の好きな色のひとつ。
そして蒼は、倉庫の意の「くら」に草冠を頂いて、
青々と茂った草木を表わす意。
緑あふれる武蔵野の面影を残していきたい。
そうした想いが込められている。


展示空間としての蒼

蒼は、
単なるホワイトキューブの展示空間ではない。
落ち着いた住宅街の醸し出す雰囲気からすでに
アプローチは始まる。

大谷石の塀を抜けると、木々の合間から凛とした
漆喰の白壁が垣間見える。
樹齢百年を過ぎたケヤキがその背景になって出迎えてくれる。

入口にもなっている駐車スペースは、
昔の都電の敷石を再利用し、
新しい石とともに奈良の造園家が組み直したもの。

ここは彫刻などの展示スペースとして利用できると思う。
 

「蔵の再生」でも触れたが、
修復する過程で理解出来た収穫の一つは、
奈良の建築家に依頼したことで、
伝統の技術・意匠・その他諸々は、
日本の風土から生まれ、歴史を持ち、
実に様々に豊かであるということだった。

建築家と私、二つの文化を背景とした感性が、
どこに着地点を見つけるか、
それをずっと意識し続けていたと思う。

奈良には何度か出かけているが、
それまで気づかなかったことが目に入るようになった奈良は柔らかな自然の風景に囲まれている。
身近に自然が寄り添っている。だから、
人の作るものは結構、堅い。
そうしてバランスを生み出している。

 

そうした眼で蔵を囲む庭を見直すと、
過去からずっとここには柔らかで自然のうちに
変遷し続ける不思議な庭がある。
けして押し付けられず、押し付けてこない...庭。 

新緑は言わずもがな、夏には蛙、秋には虫の声。
変な話、雪が降ったときなどは露天風呂がほしくなる

四季折々の姿を見せてくれる。

そうした所にすっくと建って、
両側に開いた土の扉は迎えてくれる。
格子に組まれた古い木の引戸。
その奥に隠れた蒼の空間はある。
かつて二階の床を支えるために縦横に
組まれた梁の姿をそのままに、
珪藻土掻き落しのやわらかい光を生み出す大壁、
自然を感じさせるアフリカケヤキの床が生まれた。

かつて感じた音のない空間は、
豊かな音の響く空間に生まれ変わった。